【ホリデイショートストーリー全4編】コスメティック・ホリデイ4都市スケッチ~大阪編~
〈ハイライトはこの場所で〉
「ほら、はよ行こ」
振り向いた友人の手がわたしの腕をつかむ。いつ来ても心斎橋の街は混み合っている。
やりたいことがあるからと言って東京での職場に退職届を出し、大阪にやってきて3年。いまだにやりたいことは見つからない。
駅から近いという理由だけで選んだ会社。幸いにも、お節介な人ばかりいるおかげで居心地は悪くない。同僚の中に友人と呼べる人も何人もできた。
「今度みんなでこれ行かへん?」
スマホの画面を見せられたのは、いつもの同僚5人でランチを食べている時だった。
そこにはリムジンに乗ったドレス姿の女性たちがシャンパン片手に乾杯している写真が載っていた。
「リムジン女子会いうんやって」
「知ってる。最近よくSNSで見るやつや」
「リムジンって一台いくらとかやから、頭数で割るとそんな高くないんよ。ドレスはレンタルできるし」
「わあ、めっちゃ気分上がるわぁ!」
みんなの視線がわたしに集まった。
「うん、そうだね」
わたしが頷くと、彼女たちは大きな笑みを浮かべた。
「よし、じゃあ帰りに大丸やね。コスメ見に行くで!」
みんなでぞろぞろ行ってもしゃーないから、となぜか彼女とわたしだけが行くことになった。わかっている。きっとわたしの気を紛らわそうとしてくれているのだ。
やりたいことがあったなんて嘘だ。本当は大阪転勤になった恋人を追ってきただけだ。けれど、その恋人とも先週別れた。もう大阪にいる理由はない。
「ほら、着いたで」
クラシカルな建物を降り仰ぐ。幾何学デザインの石の透かし彫りと、一階部分の赤いサンシェード。わたしが知っているのは改修後の建物だけだ。それでも特別な買い物をする場所に来たという高揚感がある。エントランスやエレベーターホールはどこかの宮殿かと思うような美しさでうっとりする。
すたすたと進む友人を追って化粧品売場にたどり着く。万華鏡のような模様の天井と鏡面天井が、不思議と馴染んでいる。
「見て。このハイライトいいやん。パーティーメイクやって。めっちゃおめかし用よな!デートより女子会向きやね!」
まるでアクセサリーのように煌めくパッケージのコスメを次々と手にとってはわたしに見せてくる。
「……ほんと、お節介なんだから」
「ん?なんか言うた?」
「ううん、なんでもない」
やりたいことは見つからなくても、きっとわたしはこれからもここで生きていく。お節介な友人たちと一緒に。
イラスト:yojibee
※このストーリーはフィクションです。
EDITOR
小説家
霜月透子
第16回・第17回坊っちゃん文学賞佳作受賞。『恋テロ』(富士見L文庫)、『夢三十夜 あなたの想像力が紡ぐ物語』(学研プラス)、「5分後に意外な結末シリーズ」(学研プラス)などのアンソロジーに寄稿。
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ホリデイシーズンのコスメ売場を舞台に、大阪・東京・札幌・名古屋の4都市のショートストーリーを書き下ろしました。物語の主人公は大丸・松坂屋 冬のBeauty Up内企画「#都市別 #ササメイク」のモデルとなっている女性たち。
彼女たちはどんな思いで、何のためにホリデイシーズンのデパートでコスメを買うのでしょうか?