【ホリデイショートストーリー全4編】コスメティック・ホリデイ4都市スケッチ~名古屋編~
〈赤みブラウンの友情〉
「ありがとうございました」
お辞儀をする美容部員に会釈して売場を後にする。
親友が好きなブランドのクリスマスコフレ。喜んでくれるだろうか。いや、それ以前に、渡すことができるだろうか。
彼女とは中学生の頃からの付き合いだ。好きな物の好みも似ているし、家族よりも恋人よりもお互いを知っている。
興味の対象が文具だった頃から、彼女もわたしもキラキラしたアイテムがギュッと詰まったものに目がない。だから、きっとこのコフレをクリスマスプレゼントとして渡したら喜んでくれるはず。
クリスマスイブはいつも彼女と過ごしていた。ほかの友達とのパーティーの予定を入れることもなく、デートの予定も入れなかった。だけど、今年のイブはどうしても一緒に過ごしたいという恋人の誘いを断れなかった。彼女の方は恋人と喧嘩までして予定をあけてくれたというのに。
わたしが今年のイブは一緒に過ごせないと伝えた時、彼女は怒るというより、傷ついたようだった。なにを言っても言い訳になりそうで、謝ることしかできなかった。それがよくなかった。
きちんと話せば良かった。年が明けたら恋人が一年間の海外出張になってしまうこと。会えるのがその日しかなかったこと。話せばきっとわかってくれたのに。いつの間にか親しさに甘えて言葉が足りなくなっていたのかもしれない。
出口に向かっていた足を止めた。
店の外に出れば、久屋大通公園でクリスマスマーケットが開かれているはずだ。いつもなら気分が上がる光景だけど、今は周りの賑やかさに落ち込んでしまいそうだった。
通路を折れ、化粧品売場をひと巡りすることにした。
あ、このリップ、彼女に似合いそう。そう思って手を伸ばした瞬間。
「うそ、なんでいるの?」
聞き慣れた声に呼び止められた。親友だった。
「えっと、わたしはあなたに渡すプレゼントを買いに」
「え?」
「イブには会えない理由があるの。聞いてくれる?それで、今年だけほかの日にしてもらえないかな?」
彼女は無言でうつむいた。肩が小刻みに揺れている。そして彼女は、笑みを浮かべた顔を上げた。
「いいよ。わたしもあなたへのプレゼントを買っちゃったし」
そう言って、わたしが好きなブランドの紙袋を掲げて見せた。
「でも、その前に。さっき、あなたに似合いそうなアイシャドウを見つけたの。ちょっと見てみない?」
わたしは大きく頷いた。
イラスト:yojibee
※このストーリーはフィクションです。
EDITOR
小説家
霜月透子
第16回・第17回坊っちゃん文学賞佳作受賞。『恋テロ』(富士見L文庫)、『夢三十夜 あなたの想像力が紡ぐ物語』(学研プラス)、「5分後に意外な結末シリーズ」(学研プラス)などのアンソロジーに寄稿。
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ホリデイシーズンのコスメ売場を舞台に、大阪・東京・札幌・名古屋の4都市のショートストーリーを書き下ろしました。物語の主人公は大丸・松坂屋 冬のBeauty Up内企画「#都市別 #ササメイク」のモデルとなっている女性たち。
彼女たちはどんな思いで、何のためにホリデイシーズンのデパートでコスメを買うのでしょうか?