【十人十色の美衣食住・前編】DJ/ナレーター・秀島史香さんにインタビュー!
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秀島さんの声は聞き心地が良く、さまざまなシーンでお声を聴いてもすぐに「秀島さんだ!」と気づくほど、本当にキレイな声です。今の仕事に就かれる前から、今のような声だったんですか?
自分の声が人とはちょっと違う、というのは小さい頃から感じてまして、「何でこういう声なんだろう?」と、子ども心にちょっと悩んでいたんです。子どもの声って、ウイーン少年合唱団みたいな澄んだ、清らかなイメージだと思うんですけど、私の声は裏返ってしまいやすく、いつも「あれっ?」って顔をされる声でした。今でこそ“ハスキーな声”なんて言っていただきますが、みんなのようになめらかでキレイな声はいいな、と思いながら育ちました。合唱の時も“音がずれる”という問題ではなく“声質が違う”ので、他の子どもと声が混ざらない少し低めの声なんです。なので、コンプレックスに近いものはあったかもしれませんね。その頃って、人と違うことを個性として受け入れられるほど心も成長していなかったので、“みんなと同じような声になりたい”と思っていました。
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ご自身の声がコンプレックスだったにも関わらず、“声”を生かした職業を選ばれたのはどんなきっかけでしょうか?
父の仕事の関係で、小学校6年生の夏休みにアメリカへ家族で引っ越したんです。アメリカは9月から新学期なので中学校に進学したんですが、ノープランで英語の勉強もせず、行ったら何とかなるだろうと楽観的に考えて現地校に行ったら、カルチャーショックを受けたんです。アメリカの中学1年生って思春期真っ盛りで皆ませているので、学校の廊下でチューしていたり、ティーンの間で大人気だったGAPのおしゃれな服を着ているんですよ。それまでの私は茅ヶ崎でおしゃれとは無縁な感じで過ごしていたのにそのショックたるや!みんな背もスラッと高いし、スタイルも良いし、カワイイし、「なんだコレ?!ドラマの世界に来ちゃった!」みたいな感じになっちゃって(笑)。
2歳差の弟は、現地の小学校で普通に男子の友達とサッカーしながらワイワイ無邪気に過ごしていました。私は慣れない英語で勉強が大変だったのもあるんですが、その年代特有の謎の自意識があって、“ハロー”と恥ずかしくて言えないし、どう話しかけていいのか分からなくて、なかなか友達ができませんでしたね。学校では「今日も教室にひとりでポツン」みたいな状態ですし、宿題もたくさんあるし、夜も眠れない日々が続いていたんです。
そんな中、アメリカに行って初めてもらった一人部屋で、ラジオをつけるようになったんです。英語が分からないので、とにかく耳から慣らそう、みたいなことから聞くようになって。最初はもちろん何を言っているか分からないんですけど、寝る前に人の声がするっていいな、と思ったんです。多分黒人女性のDJさんだったんだと思うんですが、優しく深みもありながら、しゃべり声はリズミカル。歌声のようにも聞こえて、子守歌のように優しく響くような、初めて耳にする話し方と声質だったんです。それまでは澄んだ声が美しいものだと思い込んで、そうではない自分の声にコンプレックスを持っていましたけど、「こういう声って心地良く感じるんだ」と、自分自身が肯定された気持ちになりました。私なりに勝手に膨らませていったそのDJさんのイメージは、 “都会に生きる自立した大人の女性”でもあり、優しさのある女性です。オシャレなスーツにハイヒール履いて、摩天楼の夜景を見下ろしながら、ワインなんか飲みつつやっているのかなー、なんて思ってました(笑)。
当時は“声”を生かした仕事をしたい、なんていう考えも浮かばずに、ただ「人の声って気持ちいいな」「自分以外の人の声がこんなに心地よく感じるんだな」という原体験になりました。
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ラジオは“声”だけで情報を伝えるメディアですが、秀島さんのちょっとした日常を語られる機会も多くあると思います。そういったネタを探す上で心掛けていることは?
日頃から「いま感じたことをどう言葉に変換できるのかな?」というのは習慣として考えています。例えば曇り空も日焼けを気にする方にしてみれば、これぐらいの天候がマイルドな優しい日差しなのかな、と思ったりするんです。そんなことを考えながら歩いているので、道を間違えたり、電車で乗り過ごしたりもしてしまうんですが(笑)。
あと、電車の中や中刷り広告、テレビのCMとかで面白い表現を目にすると、「自分だったらどんな風に大切な人に伝えたいかな?」と思いながら言葉を考えるんです。そういうフレーズってすぐに忘れちゃうので、スマホの音声メモや音声を文字にしてくれるアプリを使って、コレは使える!と思った時はメモして文字に残しておきます。どんな時でも気になることは立ち止まってメモしているので、家族と一緒にいる時も、「ちょっと、先に行ってるよ〜!」となることもあります。昭和からあるようなレトロな雰囲気の看板とか、昔ながらの畳屋さんや喫茶店、旧仮名づかいを使った看板文字を見つけるのがすごく好きなんですが、家族からはあまり共感を得られないこともあります(笑)。
常に、“コレを話したら面白く思ってくれるんじゃないかな”、という頭の中のセンサーはオンになっていますね。ハッと感じたり、ふと思い出したりすることって、ほっておくと忘れちゃうんですけど、そんな些細なことが日々の小さな話のネタになってます。大げさなことではなく、こぼれ落ちていってしまうようなことだからこそ、ラジオだからできる話なのかな、と思うんです。半ばそういうことを探すのが趣味にもなってきています。
04
初対面のゲストの方と話される機会が人一倍多いと思います。ゲストの方とのコミュニケーションを取るコツや気をつけていることは?
一番気をつけているのは、お互いが話しやすい雰囲気でいられることですね。やっぱり相手にはリラックスしてもらいたいですし、そのためにはこちらがただ礼儀正しくしてさえいればいいことでもないのかな、とようやく思うようになって。もちろん人としてのマナーはちゃんと守りながらですが、“親しみやすさ”という意味で、タイミングを見て、ある程度は“くだける瞬間”というのも大切にしたいな、って思っています。
お会いする方が“どういう方”で、“どういうものが好き”で、“何がお得意なのか”が事前に分かっていれば、マナーとしてもゼロでいくよりも話題の準備がしやすいですよね。初対面の時はいつも“大丈夫かな?”と緊張してますよ。でもその話題の準備をしておくことで、精神的にラクになります。今はSNSもあるので、例えばその方のご趣味がお料理だったら、その方が発信している情報を「見ましたよ」と話すだけではなくて、一歩さらに準備しておきます。例えば、「最近こういう食材が流行っているみたいですよ」みたいな。相手にとってフレッシュというか、聞いて嬉しいという情報をざっくりでも下調べしておくと、「あっ、そういうものなんですか!」と喜んでいただいて、お互いにギブ&テイクができるんじゃないかと。中にはインタビュー時間が短い方もいて、立場として聞かなければいけないことは必ずあるので、そこは最終的にはちゃんと残しておくとしても、それに終始してしまうのはお互い味気ないし面白くない(笑)。このご時世、同じ空間で、実際に会って話しを聞けるって、貴重な機会になってしまったので、そこは生身の人間同士、ライブ感を大切にしています。その場で浮かんできた“ふと湧いた疑問”とか、“それってどういうことなんだろう?”っていう素朴な疑問に、あまり蓋をしないようにしています。リスナーの方も私と同じように疑問に思っていることかもしれない、と気になるポイントを掘り下げて聞いてみたりするんですね。相手がフッと「それ聞いてくれるんですね!」とすごく嬉しそうな顔をしてくださると、そこから思わぬ方向に会話が盛り上がって、みんなでハッピーな時間になります。
あともうひとつ気をつけているのは、お互いがフェアな立場でいられるようにしています。
“何でも聞ける人”と“答えなくちゃいけない人”という関係では決してないので、答えづらいものがあったら「難しい質問かもしれませんが…」とか、「お答えづらいと思いますので、無理にとは申しませんが…」ということを前もって断っておきます。この前置きを事前にしておくと、相手も「無理に話す必要はないのか」と気持ちが楽になるのではと思うんです。答えてくださる方もいますが、「それについて今日はちょっと…」という方もいらっしゃいます。すべての反応がその方の“今の気持ち”になるので、それはそれで「お答えをいただいた」と受け取るようにしています。お互いに無理のない関係性でいるためにはどういう言葉を掛けたらいいのか、ということは常に考えていますね。
05
“声”だけで伝えていくラジオやナレーションの仕事にこだわられている理由は?
“声だけの世界”というのが私自身すごく好きで、“声”だけだからこそ広がっていく世界があると思っています。すべてが聞き手に委ねられていて、自由に膨らませていける余裕、自由があるんですよね。お互いに想像力を総動員しながら楽しめる世界観というか、それが声の仕事の醍醐味かなって。
ナレーションといっても、映像の情報を分かりやすくするものもあれば、映像にそっと寄り添うものもあります。例えば、旅番組で美しい景色の映像に添える“わっ、きれい”というひと言のナレーションでも、その“きれい”を思わず漏れてしまったように言うのか、隣の人に囁くように言うのか、それともかっちり語り部として言うのか。“声だけ”だからこそ出来る幅広い表現方法があります。気の持ち方ひとつで声のトーンも変わってきますし、とにかく奥が深く、まだまだ道半ばという感じなんですが。
また、ラジオという“声”だけのメディアは、隣にいるような距離感が魅力です。私が育ってきたラジオはひとりでブースに入って、目の前の“あなた”に向かって話しかける、というスタンスなんです。
30歳半ばぐらいに、テレビで司会のお仕事を頂いたのですが、観覧者もいらっしゃいますし、カメラも何台もあって、テンションも流れもすべてが違う世界。大勢に向かってステージに立っている、みたいな感覚がありました。それまでは隣で“ねーねー”って雑談しているようなことを仕事としてきた人間が、突然大勢の方の前で、さあスピーチしてください、みたいな感覚で。「わ、これはまったく違う現場に来てしまった!」と焦って。これまではマイク一本に向かって話していた人間が、何台もあるカメラに囲まれて、どこ見ていいのか分からない問題もあって(笑)。いい勉強になりました。
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秀島さんにとっての“声の美しさ”とは? 憧れていらっしゃる“美しい声”はどんな声でしょうか?
年齢を重ねていらしても朝からニュースをバリバリに紹介していらっしゃる方の、どんなことが起きても動じない包容力や安心感とか、長年やっていらっしゃる方だけが持つ“厚み”っていうんでしょうか。そういう“声”を聞くとホッとします。
私もそんな先輩方の背中を追いかけながら、現役でずっとやっていきたいと思っています。ただ、お声が掛からないと出演ができないというのが、我々フリーのラジオ出演者の宿命なんですよね。でも局アナの友人に聞くと、管理職になってしまうと後輩にチャンスを回さなければならない立場になってしまい、現場から離れてしまうこともあるそうで。それはそれで辛い立場ですよね。
落ち着く声だなと思うのは、FMヨコハマでもDJをされている気仙沼出身のシンガーソングライター、畠山美由紀さんです。私はカーペンターズのカレンの声が大好きなんですけど、畠山さんもカレンの歌声をずっと聞いてこられたというお話をよくされています。畠山さんの歌声も本当に素晴らしくて、寝る直前までずっと聞いていたくなります。包まれるような、幅のあるというか厚みのある女性の声に、私は惹かれるみたいです。
07
“声”そのもの以外でも、理想とされていることはありますか?
“声”だけではなく“言葉選び”にも美しさはありますよね。職業柄、電車の車内アナウンスはつい気になってしまうんです。遅延に対する状況を説明するアナウンスってよく入りますけど、先日はやわらかいトーンで「先ほどもお伝えしましたが」というひと言が入って、ちょっと心が和みました。相手の気持ちを気遣う小さなひと言が最近入るようになってきていますね。こういった一言を入れると、運行再開を待つお客さんも「それ、さっき聞いたよ」っていう感じにならないと思うんです。アナウンスされている方の「分かった上でたびたびすみませんが」というニュアンスが伝わってきて、“あー、プロの仕事だな”と感じました。新幹線に乗る前にもホームアナウンスで「寒い時期お待たせいたしました」などのフレーズを耳にするようになってきて、こういった公共アナウンスもどんどん人の気持ちを考えながら進化しているなと思うんです。
飛行機のCAさんのアナウンスは、時候の挨拶として季節のフレーズが使われていて、素敵ですよね。どんな言葉を入れたら、「業務のための連絡」にならずに聞く方々に和んでいただけるかなということも、日々研究しているので、素敵な言葉選びをしている方たちの“言葉”を聞いていると、やっぱりどこにいても思わずメモしてしまいます(笑)。
<秀島史香さんプロフィール>
ラジオDJ、ナレーター。FMヨコハマ「SHONAN by the Sea」(日曜朝6時~)のDJをはじめ、テレビ番組やCM、機内放送、音声ガイドのナレーション、コラム執筆など幅広く活動中。著書に、『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)。新刊 『なぜか聴きたくなる人の話し方』(朝日新聞出版)が、5月20日(金)に発売。
公式サイト https://fmbird.jp/dj/fumika_hideshima/(外部サイトへ遷移します)
Twitter https://twitter.com/tsubuyakifumika(外部サイトへ遷移します)
Instagram https://www.instagram.com/hideshimafumika/(外部サイトへ遷移します)
後編では、秀島さんの体調管理やリラックスタイムについても伺いました。
編集/㈱メディアム 成田恵子、執筆/北村文、撮影/三浦藤一
撮影協力/FMヨコハマ
EDITOR
DEPACO編集部
副編集長 秀島
プロモーション歴10年以上、DEPACOの生みの親。ビューティ系企画~編集~広告~イベントまで幅広く携わる。経験とはうらはらに、百貨店入社をきっかけにデパコスに触れ始めた“保守派”でかつ、"自信はないけど少しはこだわりたい派"。趣味はアート&銭湯めぐり。
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“十人十色の美衣食住”。
ひとそれぞれ、さまざまな「美」を大切にされている方々に迫ります。
今回のゲストは、FM局のDJ、テレビやCMのナレーション、読み聞かせをはじめ、音楽コラムやレビューの執筆活動など幅広く活動され、2019年には文化庁芸術祭で放送個人賞を受賞された、耳に心地よい独特のハスキーボイスでおなじみの秀島史香さんです。
■後編は、5月25日(金)公開予定→