村上：前回に続き、23年春のコレクションについて教えてください。マットなリップに対して目周りは、めっちゃ輝いてますね(笑)。

YUKI：その対比でファンタジーとリアルのコントラストを表現しました。“インフィニット シングル アイズ”は手にとるとパールがたっぷりで、かわいくておしゃれだけれど、リアルにも使ってもらえると思います。あんまり考えず、簡単にこれ1色で、奥行きのあるアイメイクができるんです。その分、リキッドのアイシャドウ“リクイドアイズ”と“アイディファイニング ペンシル”にはファンタジー感をぎっしり詰めました。

僕が見た地中海のきらめきをぎゅっと凝縮したプロダクトです。使いやすさも兼ね備えていますが、ちょっと目立ちたいなっていう色です。“アイディファイニングペンシル”は、マットな色と質感です。春っぽさも意識して彩度をぐっと上げたので、まぶたにスマッジ(※)して使っていただいてもおしゃれです。もちろん重ねてもいい。最後に色をパキッと出すような使い方もできます。

※スマッジ……ぼかすメイクテクニックのこと

望月：これは、何色と言ったらいいんだろう？

YUKI：そうなんです。ひっかかりのある“変な色”を作りたいと思いました。アンバーブラウンやパールをふんだんに盛り込んだアイメイクとバランスを取るため、チークはローズカラーです。これはどんなアイ、リップにも合うんです。つやつやで本当にかわいい色に仕上がりました。間違いない色です。ネイルは、今回のコレクションをぎゅっと詰め込んだ2色です。

望月：1色は、ちょっとカーキっぽいですね。

YUKI：ジェンダーレスに、エイジレスに使えます。「春なのに、このくすみ色？」と思う方もいるかもしれませんけれど。

村上：でも透明感があるから、オルタナティブ(※)でも春らしいです。

※オルタナティブ……従来と違う、主流と異なる、などの意味。

望月：すてきです。春なんだけど、いわゆる既定路線の春らしさではなく、でも細部へのこだわりで春らしさを表現されて。さりげなく予定調和を壊してくるその感性に脱帽です。

村上：今回はナポリにインスピレーションを得ていますが、普段の拠点はニューヨークですよね？やはり離れがたい魅力があるんですか？

YUKI：本当に誰も否定しない街で、いい意味でも悪い意味でも、何をしてもアリなんです。どんなクリエイションも形にはまらず、「これもありなんだ」「この可能性は捨てちゃダメだよね」「美しさの形には、これもあるんだ」という表現が多い。変化球が次々と放たれるので疲れてしまう時もあるけれど、何かクリエイションするときって、それが必要なんです。昨日までの価値観を覆すようなことがどんどん起きる。やっぱり刺激は中毒になってしまいますね(笑)。

村上：今のクリエイションって、相反するものを掛け合わせる面白さだと思うんです。やっぱりニューヨークって街自体が多様だから、オルタナティブな感覚を体感し続けられるんでしょうね。

望月：向こうにいるからこそ見える日本の魅力、Jビューティーの魅力については、どう考えていらっしゃいますか？

YUKI：まさに時代でもあると思います。アメリカの良さはいろいろな人の美しさを表現できることですが、昔はアメリカ自体もそうではなかったと思うんです。ただ先行しただけ。ビューティーは非現実的な、完璧な人によるものだけじゃないよね？っていち早く気づいただけだと思うんです。だからアジアで生まれ育った日本人が、このカルチャーで生まれ育った価値観のフィルターを通して発信できれば、もっと強くアジア人の魅力を表現できる自信があるんです。そんなユニークさが日本発、アジア発のプレステージブランドから次々発信できたら、インターナショナルなブランドに負けないと思います。

村上：なるほど。長年ずっとアジア人のことを考え磨き続けてきたJビューティーだからこそ、日本独自の美を発信できるんですね。

YUKI：昔のアジアンビューティーは、アジアの人ではなく、海外から見たアジアンビューティーでしたよね？一方、日本やアジアが発信するアジアンビューティーは欧米の影響が強かった。すごく矛盾していたんです。もちろんインスピレーションを受けるけれど、アジア人のフィルターを通して日本から発信できれば、より本物のJビューティーにたどり着ける気がします。

望月：本格復活はもう少し先の話かもしれませんが、数年前のインバウンド消費はJビューティーが世界から脚光を浴びるだけの底力があることの証明だと思っています。〈RMK〉も他のブランドもどんどん海外進出しているので、それぞれの世界で根付き、価値を発信できたら、底力はもっと上がるでしょう。

村上：最後に、YUKIさんからデパコスとか百貨店の世界に望むことがあれば、ぜひ伺いたいです。

YUKI：日本の百貨店ってすごくユニークな強みを持っていると思うんです。やっぱり、コスメを店頭で買いたいお客様が多い。日本はそのカルチャーが強く、独自のユニークさはポテンシャルだと思います。自分の視界に全ブランドが入る経験、そこから選べる百貨店の良さを意識しつつ、インターナショナルブランドに負けない、日本発信のJビューティーの存在感が際立ったら、僕はいつ辞めてもいいです(笑)。

村上：そのときこそ、ど真ん中にいてください(笑)。

YUKI：感無量になってしまいそうですね。今は暗いニュースも多いけれど、メイクなどのクリエイティブな仕事が生み出す熱量は起爆剤にもなると思うんです。〈RMK〉の打ち出す価値観、社会へのメッセージを発信していきたい。「私たちは、こういう角度で物事を見てくれる人を、すてきだと思っています」というメッセージが伝わると、プロダクトやシーズナルなコレクションだけじゃなくて、ブランドと使う人のつながりがもっと強くなると思うんです。逆に言うと、ユニークさは、そんな所からしか生まれない。もうちょっと社会的に、今の考えや価値観も深堀りしてエンゲージしていけたら最高ですね。