【前編:刺繍作家・小菅くみさんにインタビュー】質感や表情を刺繍で表現。大胆かつユニークな作風のこだわりとは?〈十人十色の美衣食住〉
01
刺繍を始めたきっかけを教えてください。
祖母や叔父が油絵や人形を作ったりしては個人で展示をしていたので、子どもの頃から何かモノ作りをしたいと思っていました。粘土細工や切り絵などをしている中に刺繍もありました。
独学なんですけど、小学校の家庭科で裁縫を習う前から人形やマスコットなどをチクチク縫っていたんです。できたものを祖母に見せると喜んでくれたので、そういう達成感が嬉しくて作っていました。
02
刺繍をする時に難しいと感じることは何でしょうか?
大きい生地に刺繍する時ですね。まず下絵を描いて全体像が見えてきたところから刺繍するので、単純に時間がかかります。下絵を描き上げるまでにも時間がかかりますし、刺繍していくのも大変なんです。年齢を重ねて視力も落ちているので、細かい作業は気をつかうこともあります。でもやっぱり刺繍は好きなのでやめたいと思うことはありません。
それから厚手の生地は硬くて針が刺しにくいので苦労します。リモコンの底をトンカチのようにして、打ちながら縫うこともあります。本当は刺繍用の指ぬきを使えばいいんですけど私には合わないので、自分なりに工夫してやり方を見つけながら作業しています。
以前、柔術着やサウナ用のテントに刺繍したこともあって、指が折れそうなぐらい生地が分厚かったので少しずつ進められるように、納期までに時間をいただきました。
刺繍糸は基本6本どりです。大きい作品は6本どりのまま使いますが、小さめの作品は1~2本どりで細かく進めていくことが多いです。
動物の表情を見せたい時などは、絵と同じように細い糸で表現していくほうが伝わりやすいんです。下絵が表現したいイメージに一番近いのですが、刺繍していくうちにちょっと変わってしまうこともあります。できるだけ下絵からブレないように、細い糸を使うようにしています。
03
刺繍を仕事にするようになったきっかけは?
会社勤めをしていたんですが、20代前半に難病にかかって入院することになり、ベッドの上でもできることを探してはじめたのが刺繍でした。刺繍は針と糸と布さえあればできるので、周囲にも迷惑がかからないと思って。
そこから自分でやったことを誰かに喜んでもらうことができないかと思うようになって、友人や友人の子どもの洋服に刺繍をしはじめました。そんなことを続けていたら、友人たちが「刺繍を仕事にしたほうがいい」と言ってくれて。まだ通院中でしたが、友人が準備を進めてポップアップショップで商品を出せることになりました。
当時はまだ「Creema」のようなハンドメイドサイトなどがなかったので、自分の作品を売るとしたら小さいバザーぐらいかなと思っていたんです。でも作家としてちゃんと仕事に繋がっていくように、グループ展示やポップアップショップを企画してくれる友人が多くて、ちょっとずつ自信が持てるようになりました。最初は自分の商品が売れるとは思っていなかったので、最初に売れたと報告を受けた時はすごく嬉しかったです。
04
作品のモチーフはどのように選びますか?
刺繍作品って、とても繊細な感じで小花など乙女っぽいモチーフが多い印象だと思うんです。刺繍のついた洋服もありますけどきれいめなものが中心で、あまり大胆なものがない。かといって大胆な刺繍となるとスカジャンのように男性っぽくなってしまいがちです。でも洋服に刺繍するようになって、自分がおもしろい、着たいと思えるものって何だろうと考えていくうちに、今の作風になっていった感じです。
絵を描いたり、何か作ったりするのが好きだったのと、何かを作っている人たちと関わりたいと思って、日本大学藝術学部の写真学科に進学したんです。写真を上手に撮ることより記録写真や構図を考えて撮るのが好きで、そこで学んだ光の具合や着眼点みたいなものは今の作風にも繋がっていると思います。
2024年の11月ぐらいに個展があるので、何か思いついたらスマホにメモするようにしていますが、今はまだそんなに浮かんできていないです(笑)。私がモチーフにすることが多いのは、動物、食べ物、人物ですが、大好きなマイケル・ジャクソンの作品は作りたいなと考えているところです。
05
作風がユーモラスですが、意識していることはありますか?
自分の作品がみなさんに購入してもらえるようになるとは思ってもいなかったので、出展しはじめの頃はもうちょっと努力して上手になろうと、改めて縫い方を勉強しました(笑)。
上手になるために作品数を増やしたり、どうやったら個性的になるかを意識して作品に落とし込んでいた時期もありましたね。今は大胆で、クスッと笑ってしまうような面白い感じにしたいと思っています。人が描いた絵や作品には自分では考えつかないところがあるから、面白いと感じたり興味を持ったりすると思うんです。そんな感覚でちょっと違った刺繍として見てもらえたら嬉しいです。
06
作品の制作にどれぐらいの期間がかかりますか?
納期までの期間と作品数に合わせて、1作品にかけられる時間を配分して制作していますが、一番時間がかかるのはアイデア出しです。
例えば食べ物だったら、みんなが好きな食べ物やツヤ感が伝わりやすいものは?と考えることに時間をかけています。資料を探して、下絵を描いてから刺繍をはじめるんですけど、勢いにのれば集中して作業できるので、小さい作品だったら2~3日で仕上げています。
時には徹夜しながら作業することもあります。できあがった時の達成感があるので、体力的な限界がありますが、気持ち的につらいことはなくて、やるしかないという感じです(笑)。
刺繍の作業そのものはぬり絵のような感覚で、塗りつぶすとか、どう光沢をつけていくかを考えています。凹凸や陰影を出すために白い糸を使うんですけど、それは絵を描いている時に学んだことが役に立っています。
07
作品によって刺繍糸の素材は変えますか?
刺繍糸は綿素材のものが基本ですが今はいろんな種類が出ていて、シルクやゴムっぽいものもあるんです。
糸状のものであれば何でも縫えるので、人物モチーフのセーター部分を縫う時はリアルな感じを出すために毛糸っぽい太い糸で縫ったり、猫のひげなんかは光沢がある糸を使っているんです。
新しい素材を見つけては、どんな刺繍にしようか考えるのも楽しいです。
後編では、小菅さんの愛用品や趣味について伺いました。
<小菅くみさんプロフィール>
日本大学藝術学部写真学科卒。刺繍ブランド「EHEHE(エヘヘ)」の刺繍を中心とした作品を制作する刺繍作家。絶妙なセンスでチョイスしたモチーフを毛並みや質感、表情まで刺繍で表現する。巧みな技術とユーモアたっぷりの作風が支持され、個展やグループ展、ポップアップショップなどを多数開催。近著は『小菅くみの刺繍 どうぶつ・たべもの・ひと』(文藝春秋)。2024年11月に個展を開催予定中。
Instagram:@kumikosuge
編集/㈱メディアム 成田 恵子、執筆/北村 文、撮影/Suat Koylu
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EDITOR
DEPACO編集部
エディター 高梨
旅行誌の出版社で編集職を10年以上経験。出産を機にキャリアを見つめ直し、今後は大好きな美容の情報発信をしたいという想いでDEPACO編集部へ。美容はスキンケアやベースメイクでの“土台作り”が好き。趣味は旅と料理。
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“十人十色の美衣食住”
ひとそれぞれ、さまざまな「美」を大切にされている方々に迫ります。
今回のゲストは動物・食べ物・人などをモチーフに、巧みな技術とユーモアたっぷりな作風で支持される刺繍作家・小菅くみさん。個展やポップアップストアを開くとすぐ完売してしまうほど大人気です。作品作りに対するこだわりやサウナ・スパ健康アドバイザーの資格を取るほど大好きなサウナをはじめとする趣味についてお話を伺いました。