【デパコスの未来・前編】昔の苦労や挫折も直撃!女性社長にビューティへの思いを聞く「WWDJAPAN」&「DEPACO」の編集長鼎談〈ポーラ〉編
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〈ポーラ〉は、「どこまでやれちゃうんだろう?」な会社
及川美紀〈ポーラ〉社長(以下、及川):〈ポーラ〉は1929年創業の老舗化粧品メーカーです。エイジングケアと機能商品、基礎化粧品に強く、日本全国たくさんの百貨店でもお世話になっています。研究には、自信があるんです。
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):発表会でいろんな研究の結果を聞くたび、「この人たちは、どこまで行ってしまうんだろう?」って思います。
及川:科学をどこまでも突き詰めていますからね(笑)。
望月美穂「DEPACO」編集長(以下、望月):発表会、本当に毎回楽しみにしています。「化粧品で、どこまでやれちゃうんだろう?」っていうくらいの発見があるんです。〈ポーラ〉は独自成分に対する研究やこだわりがすごく強いので、お話は毎回ワクワクします。
及川:私たちも「お客様のお肌は、どこまできれいになっちゃうのかな?」とワクワクしながら、「もっとこうだったらいいのに」を突き詰めています。
村上:サイエンスでも有名ですが、〈ポーラ〉は同時に及川社長も、ビューティ業界における女性社長として注目を集めています。
02
大手化粧品メーカー初の女性社長の誕生までの経緯は?
及川:最初に「日本の大手化粧品メーカーで初めての女性社長」と言われた時は、私が一番びっくりしました。〈ポーラ〉に入社したのは、1991年。男女雇用機会均等法の制定・施行からまだ数年という頃、「女性が一生働ける仕事をしたい」と入社しました。「女性が一生働ける仕事」って、女性のために何かをつくっていたり、女性のためにサービスを提供していたりするところなのかな?と考え、化粧品会社を志したんです。私自身も学生時代はニキビに悩んでいました。皮膚科に通ったり、食事療法を取り入れたりしたので、ニキビに悩んでいる方の気持ちは、とってもよくわかるんです。電車に乗ってもうつむきがちでした。
望月:人に会うのがイヤになりますよね。
及川:そうなんです。ちょっとした食事会でも、「ファンデーションを厚塗りしなくちゃ」とか「アップで見ないでほしいな」と思っていました。「少しでも肌がきれいになれば」との思いもあって、化粧品会社に入ったんです。最初は、美容トレーナーでした。そして、この美容トレーナー歴がとっても長いんです。
というのも割と早く、同じ部署の先輩と社内結婚しまして、当時の上司から「同じ部署に2人は置けない。君はどこかに異動してくれ」と言われ、販売会社に出向したんです。最初はやっぱり「私が異動?」「夫に負けたの?」とショックでしたが、美容トレーナーはやり甲斐のある仕事でした。受け入れ先の販売会社の社長は、「及川さん来てくれるの?あなたでよかった」って言ってくれて、支えられて。新入社員だった私の仕事を見て、「いつも笑っているな」とか「元気だな」と思ってくれていたそうです。
望月:「一緒に働きたい」と思ってくださったんですね。
及川:「あなたでよかった」の一言に支えられ、居心地もよく、販売の現場に近いから結局20年近く過ごしました。その後、「現場の知恵を生かしなさい」ということで商品企画部長として本社に戻りました。ちょうど「B.A」に抗糖化という研究を取り入れたリニューアルのタイミングです。社長に就任したのは、2020年です。
03
「グレたこと」も、思い起こせば「全てが糧」
村上:順風満帆だったのでしょうか?
及川:入社してすぐ出向するぐらいですから、そんなに順風満帆ではありませんでした。トレーナーとして、スキルも思いも違う人たちをまとめるのも簡単ではありませんでした。昇進試験に落ちて、グレたこともありますよ(笑)。「人をアシスタントだと思っているんじゃないか?」って言われたり、「“干渉する範囲”を縮小してみろ」と諭されたりもありましたが、今思うと全てが糧になっています。
望月:現場で働くと、いわゆるベテランのビューティーディレクターさんは、当時の及川社長よりも年上ですよね?
及川:親のような存在の方もいましたよ。
望月:ビューティーディレクターには、90歳を超えてなお大活躍されている方もいるんですよね。
村上:そんな方は、「私が育てた」ぐらいの感覚も持っていらっしゃるでしょうね(笑)。
及川:いっぱいいます。「及川さん、私たち同期入社よね」とおっしゃってくださるショップオーナーは、本当にありがたい存在です。
04
ビューティ最大の魅力は「人が変化する」こと
村上:及川社長にとっては、それもビューティの魅力でしょうか?
及川:ビューティには魅力しかありません。最大の魅力はやはり「人が変化する」ことです。例えばスキンケアやメイクで表面的に変わると、マインドまで変化して笑顔になります。続けることで自信に繋がり、仕事までうまくいく、なんてこともあるのではないでしょうか?人の進化や変化は、ものすごい魅力ですよね。
村上:及川さん自身も、ニキビが治ったら前に出られようになったんですか?
及川:あんなに悩んでいたのに、セルフケアにフェイシャルマッサージを取り入れて保湿するうち、気にならなくなりました。正しいお手入れ、信頼できる情報、誰かに確認できる環境の重要性などを学びました。当時大学生だった私にとって百貨店の化粧品売場の敷居は高かったんですが、「もっと早く行けばよかった」と感じました。
望月:それは、声を大にして言いたいですね(笑)。
及川:ビューティって、夢であり希望です。すぐには変わらないかもしれないけれど、5年、10年と蓄積していく力はすごいんです。この業界に身を置く30年の間に変化していく、進化していく人を見続けています。
望月:90歳を超えてなお現役のビューティーディレクターは本当に肌もきれいで、生き生きしていらっしゃいますよね。ビューティの最前線の現役が、ビューティの力を体現していらっしゃいます。
村上:トップに就任して以降、変えたこと、逆に変えなかったことはありますか?
及川:就任して早々に新型コロナウイルスの影響を大きく受けましたが、〈ポーラ〉が大事にしている対面販売の精神は変えたくありませんでした。人と人とのつながりや、根幹にある“お手渡しの心”は、今も大事だと思っています。〈ポーラ〉の鈴木忍創業者は、「美容を販売し、商品を奉仕せよ」という言葉を残しています。彼が言う通り、私たちは美しさを販売している。商品は、それを助けるためのものです。だからたとえ人に会えなくても、「人とのつながり」を求める〈ポーラ〉の心は継続しようと思いました。
一方で「変えなきゃいけない」と思っていたのは、創業100周年を迎える2029年に向かう会社の姿勢です。〈ポーラ〉が掲げる「2029年ビジョン」は当初、「伝統×革新による驚きと感動で互いを高めあう関係へ」でした。「〈ポーラ〉がどうするか?」を訴えていたんです。私自身、その理念も大好きですが、世の中の変化を目の当たりにすると「主語を会社にしちゃいけないんじゃないか?」って思うようになったんです。そこでメンバーといろいろ話をして、「主語を、会社じゃなくて社会に」と決めました。「2029年ビジョン」を練り直し、「We Care More.世界を変える心づかいを」が誕生しました。根幹にある“お手渡しの心”による人と人とのケア、さらに拡張した社会や地域、そして地球のケアという意味を盛り込んでいます。
村上:「こんな社会をつくりたい」というビジョンに向かうイメージですね。
及川:つくりたい社会があれば、会社が規定しなくても社員一人一人、ビジネスパートナー一人一人が自分の役割を考えられると思うんです。
望月:「We Care More.」だからいいんでしょうね。可能性が無限に広がります。
村上:Moreには千差万別、十人十色の考え方を認めてくれるイメージがあります。
及川:「会社で社会を変えられる」なんて“おこがましい”かもしれませんが、つながれば可能性が生まれるかもしれない。〈ポーラ〉は、「最初の一歩」「大河の一滴」でいいんです。でもその「一歩」「一滴」が日本全国の売場で行われていたり、一人一人のビューティーディレクターや社員が実践していたりすれば、それが伝播するかもしれない。だから「We Care More.」を〈ポーラ〉に関わる一人一人が考えられるようにしたいんです。
望月:会社で「We Care More.」という指針は出すけれど、「何をケアするか?」は指示されないんですね。
及川:「More」は考えるんです。
05
100歳になっても「美に貪欲」でいて欲しい
望月:素敵ですね。逆にこの2年間で「本当はもっと変えたいのに、なかなか難しくて変えられない」ことはありますか?
及川:「We Care More.」という理想は掲げたけれど、社内にはまだまだ「じゃあ、何からやったらいいの?」という戸惑いがあります。社員一人一人、ビジネスパートナー一人一人の可能性を高めることについては発展途上です。私は、「私なんて……」っていう人をなくしたいんです。ビューティの世界でも「私はもう、おばあちゃんだから……」って方、いらっしゃるじゃないですか。そういう人をなくしたい。
80、90、100歳になっても、美に貪欲でいてほしい。そんな人は絶対「私なんて……」って言わないんです。仕事でも「私なんかが発言していいんでしょうか?」とか「私の意見なんて……」と考えている方をなくしたいと思っています。組織的なしがらみや風土みたいなものを、もうちょっと分解し、柔らかくしたいです。
村上:どんなことに取り組んでいるんですか?
及川:まず、私が柔らかくありたいと思っています。「及川さんって、話しかけにくいんじゃないか?」「こんなこと言ったら、怒られるんじゃないか」と思われないよう気をつけています。心を広く持って、まずは私自身がオープンマインドでいたい。そこで“幸せ研究所”を作ったんです。
美容って、誰かを幸せにするじゃないですか。そして誰かが幸せになると、周りの人も幸せになりますよね?「そういう幸せのためには、何をやったらいいんだろう?」まで含めて、幸せを研究するんです。今は、研究員を増員中。自主的に「私、研究員やりたい」って言う人を募集しています。今年は、関西支部ができました(笑)。
望月:輪が広がり、社外ともつながり、幸せの輪がさらに拡大すると良いですね。
及川:「広がる」って幸せですよね。
後編ではビューティ業界における女性参画や、多様性の推進についてお話を伺います。
EDITOR
DEPACO編集部
編集長 望月
新聞記者やビューティ業界紙の編集記者を経て、大丸・松坂屋に入社。化粧品各社の戦略やビジネスなど、ビューティ業界を見つめて早10数年。年齢に伴う肌悩みに向き合いつつ、無理をしない「ながら美容」を追求する編集部最年長。愛犬の散歩で1日平均1万歩の健脚が自慢。
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大丸・松坂屋による「DEPACO」は2022年3月、デパコスの“メディアコマース”としてリニューアルしました。特集「#デパコスの未来」では、「DEPACO」の編集長・望月が、ファッション&ビューティのニュースメディア「WWDJAPAN」の村上要編集長と、毎回ゲストを招いて百貨店ビューティやデパコスの未来を語り合います。
今回は「B.A」や「リンクルショット」「ホワイトショット」などを手掛ける〈ポーラ〉の及川美紀社長とのお話。前編は、大手化粧品メーカー初の女性社長と言われる及川さんのこれまで、〈ポーラ〉のこれからなどを伺いました。