【デパコスの未来・前編】「美」ではなく、「希望」を語るブランドって!?「WWDJAPAN 」&「DEPACO」の編集長鼎談〈KANEBO〉編
01
「定番」「安心」から脱却したい
望月美穂「DEPACO」編集長(以下、望月):山口さん、今日はよろしくお願いします。早速ですが、〈KANEBO〉はコロナ禍の直前にリニューアルされましたよね?
山口聡一・花王化粧品事業部門〈KANEBO〉ブランドグループ長(以下、山口):はい。花王の化粧品事業は『Celebration of Individuality』、ひとりひとりの人間を、その生き方を、讃えることを目指し事業を営んでおり、その中でも〈KANEBO〉は代表的なブランドの一つになります。「カネボウ化粧品」という企業名を冠したブランドとして2016年にスタートしました。当時のブランドのイメージは、「定番」「安心」で、正直、ブランドのエッジ、個性が足りないという課題を抱えていました。そこで存在意義の再確立とブランドの個性化、スター商品の創出を目指し、リブランディングしたんです。
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):望月編集長は、リブランディング前の〈KANEBO〉もご存知ですよね?
望月:はい、存じ上げております。
村上:どんなブランドでしたか?
山口:お手柔らかに、でも忌憚なくお願いします(笑)。
望月:「どこまで言おうかな~?」って考えながら山口さんのお話を聞いていましたが(笑)、「定番」とか「安心」のイメージで「個性がなかなか見えなかった」というのは、まさにその通りだな、と思います。王道で、百貨店ブランドにふさわしい安心感があり、お客様にも長年愛されていましたが、一方、化粧品フロアにあるたくさんのブランドの中から選ばれる「あと一押し」は足りなかったかもしれません。優等生ではあるけれど、女性からは「あの人、いい人なんだけどね~」って言われちゃう男性、みたいな存在とも言いましょうか。
山口:ドキッとしますね(苦笑)。
村上:なるほど。そんな課題を解決するためのリブランディングだったんですね。
山口:われわれが数カ月かけて分析したことを一言で(笑)。まさに、そんな大きな課題を抱えたブランドでした。
02
原点は、希望を発信して、強く生きる人を応援
村上:リブランディングに際して、最初に行ったことは何ですか?
山口:まずは「カネボウ化粧品の原点に立ち返ろう」というキャッチフレーズの下、過去の歴史を全て振り返り、〈KANEBO〉ブランドの哲学、あるいは会社の思想をひも解きました。
村上:ひも解いたら、何が見つかったんですか?
山口:カネボウ化粧品は10年に1度くらい、社会の情勢や課題に対して声を上げ、スローガンを発表していたんです。中でも印象的だったのは、女性の社会進出が叫ばれていた1980年代に「女性の時代」宣言というスローガンを掲げ、1年前の79年にはイギリスのマーガレット・サッチャー首相(当時)を広告に起用したんです。翌年の80年には47都道府県それぞれを代表する女性を一般公募して、その中からテレビCMに出演していただく1人を選んでいます。これも、女性の時代を応援するキャンペーンですよね?
望月:先進的な企画ですね。
山口:当時は「ジャパンドリーム」なんて言われたそうです。
村上:なるほど。当時から前を向いて歩く女性を応援する会社だったんだから、そのアイデンティティーをよみがえらせようとしたんですね。
山口:カネボウ化粧品の原点は、希望を発信して、強く生きる人を応援する会社でした。そこで新生〈KANEBO〉のブランドパーパスを、あえて「美」ではなく「希望」を語るブランドとし、ブランドメッセージに「I HOPE.」を掲げました。
03
「希望よ、動き出せ。」をテーマにコミュニケーション
村上:だからこそ、2021年からは「希望よ、動き出せ。」をテーマにコミュニケーションしています。
山口:ブランドとして広告だけじゃなく、商品からも「希望よ、動き出せ。」が伝わるよう、機能だけではなくて、その先にあるベネフィットまで“設計”しています(詳しくは後編をチェック!)。
望月:「希望よ、動き出せ。」のテレビCMに登場する中島セナちゃん、すごくいいですよね。
山口:中島さんを含め、モデルとして起用した皆さんは「ダイバーシティ・キャスティング」という考えのもとで選んでいます。〈KANEBO〉のパーパスとの相性や人生観、今の思いなどを大事にしました。「希望よ、動き出せ。」は、「希望」って与えられるものではなく、自分の中にあるんだというメッセージを届けようとしたものです。単なるリップの広告ではなくて、根底にあるメッセージを表現しています。
望月:この動画を見ると、すごく前向きな気持ちになります。
「希望よ、動き出せ。」のTV CM(外部サイトに遷移します→)
村上:店頭からは、どんなメッセージを発信しているんですか?
山口:まずは社内研修で〈KANEBO〉が発信する希望、「I HOPE.」の本質を伝えています。われわれは化粧品を売っていて、お客さまには使っていただいていますが、「希望」を届けるというその先の目標、そこをしっかりと意識したカウンセリングを心がけているんです。
村上:具体的にどうするんですか?「あなたの希望は、なんですか?」って聞くわけでもないでしょうし。
山口:いきなりは聞きませんよ(笑)。肌状態やメイクの好みを伺いながら、顔の中で好きなパーツなどについて質問させていただいています。すると自然に「希望」へとつながるカウンセリングにいざなえるようになっています。
望月:カウンセリングって、どうしてもメイクやスキンケアのお悩みとか、自分の気に入らないところ、そのカバー方法など、マイナスをゼロに、せいぜいちょっとプラスにすることを目指すコミュニケーションになりがちです。「こうなりたい」という、お客さまの思いに近づけるカウンセリングを意識されている感じですね。
山口:もちろん悩みも伺いますが、だからと言ってネガティブから入るのではなく、もっとポジティブにできる方法があるのでは?と考えています。
04
ブランド一丸となって「希望」を発信する伝道師
村上:そういうコミュニケーションの変化について、店頭の美容部員さんは積極的ですか?
山口:リブランディング以降、社員のエネルギーがすごいんです。店頭の美容部員をはじめ、マーケティング、商品開発、研究部門も、「希望」を発信する伝道師というマインドで活動していただいています。
村上:望月編集長、〈KANEBO〉みたいに「お客様にこうなってほしい」や「社会がこうなったらいいのに」というパーパスを掲げるブランドは増えているんですか?
望月:そうですね。特に百貨店ブランドは、社会的なメッセージを強く発信している印象です。メイクやコスメはすごくパーソナルなものですが、一方ですごく社会的な存在とも思っています。だから社会的な存在の化粧品を作るメーカーには、「社会をどうしていきたいか?」の視点が求められています。今までのように、ターゲットを年代などで決め付けたりできない時代です。だから「自分たちが、どんな社会を目指そうとしているのか?」「お客様を、どうしたいと思っているのか?」というメッセージに共感してもらうのが大事だと思っています。
村上:百貨店や「DEPACO」のサイトでも、そんなメッセージを一緒に分かち合い発信したい?
望月:そうですね。やっぱりお客さまも「何をやっている会社なのか?」「どういう思いで、この商品を作っているのか?」という深いところまで興味を持たれるので、「DEPACO」で応えたいなと思っています。われわれには全国に大丸・松坂屋という店舗もあるので、オンラインのメディアからリアルの店頭まで一気通貫でお伝えできるメリットがあると考えています。
後編では、「I HOPE.」という思いから生まれる〈KANEBO〉の製品に迫ります。
■後編はこちら→
EDITOR
DEPACO編集部
編集長 望月
新聞記者やビューティ業界紙の編集記者を経て、大丸・松坂屋に入社。化粧品各社の戦略やビジネスなど、ビューティ業界を見つめて早10数年。年齢に伴う肌悩みに向き合いつつ、無理をしない「ながら美容」を追求する編集部最年長。愛犬の散歩で1日平均1万歩の健脚が自慢。
ご紹介の商品はこちら
- ※この記事は、当記事の公開時点のものです。
- ※価格は全て税込です。
- ※写真と実物では、色、素材感が多少異なる場合がございます。
- ※取り扱いの商品には数に限りがございます。
- ※入荷が遅延する場合や急遽販売が中止になる場合がございます。
大丸・松坂屋が手がけるデパコスのメディアコマース「DEPACO」の編集長・望月が、ファッション&ビューティのニュースメディア「WWDJAPAN」の村上要編集長と、ゲストを招いて百貨店ビューティやデパコスの未来を語り合います。今回は、〈KANEBO〉の山口聡一・花王化粧品事業部門「KANEBO」ブランドグループ長にお話を伺いました。前編は、リブランディングの礎になった〈KANEBO〉のパーパス(※)に迫ります。
※ビジネスシーンでは「何のためにこの会社やブランドがあるのか」という、企業の最も根本的な存在意義や究極的な目的、全体の指針などを指す