【デパコスの未来・前編】クリエイティブディレクター・YUKIのインスピレーションの源とは?!「WWDJAPAN」&「DEPACO」の編集長鼎談〈RMK〉編
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):今回のゲストは、来日中の貴重なお時間をいただきました、〈RMK〉クリエイティブディレクターのYUKIさんです。よろしくお願いいたします。
YUKI〈RMK〉クリエイティブディレクター(以下、YUKI):よろしくお願いします。
望月美穂「DEPACO」編集長(以下、望月):この企画にYUKIさんが出てくださることを熱望しておりました。本当に、首を長くして待っておりました(笑)。
村上:YUKIさんのクリエイティブディレクター就任(2021年5月)のニュースを聞いた時は、「ついに次世代のスターアーティストが現れたな」って、すごく興奮しちゃいました!
望月:〈RMK〉だけじゃなく、業界全体の新時代の幕開けを象徴する存在ですよね。改めて、どんなキャリアを経て現在に至っていらっしゃるんですか?
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都内の美容師から一念発起してNYでチャンスを掴む
YUKI:もともとは東京で美容師をしていました。そのときにはメイクアップアーティストを志していたわけではなかったのですが、すごく運がよくて、サロンに錚々たるファッション誌が揃っていました。イタリアン「ヴォーグ」や「i-D」など、海外誌もありました。オーナーのセンスが良かったんですよね。そんな雑誌を営業後に読んだり、撮影に参加したりするうちにファッションやクリエイティブに興味を持って、渡米を考えたんです。幼い頃からクリエイティブな仕事に就きたいと漠然と思っていましたが、一方で勉強もしっかりして選択肢を狭めないようにしていました。でも、最終的には渡米して、メイクやファッションに関わるようになったんです。そしてまたすごく運がいいことに、渡米して1年でパット・マクグラス(注:世界的ビューティークリエイターで、自身の名前を冠したメイクブランドも手がけている)のアシスタントの話があって。それからの話は、語り出したら止まらないんですけれど(笑)。
村上:がっつりクリエイションの世界に入ったんですね。
YUKI:どっぷり漬かってしまいました。そこから独立して、少しずつキャリアを重ねていって。スタートから走り続けている感じです。
望月:渡米して今、何年くらいですか?
YUKI:12年目になりました。
村上:僕にとってのパット・マクグラスは、ファッション・ウィークでおなじみの存在です。バックステージに入ると、大体いつもファンデーションをこねています(笑)。
YUKI:パットのクライアントはビッグメゾンばかりで、ニューヨークでの撮影でもスティーブン・マイゼルらビッグフォトグラファーと働いていました。手掛けるビジュアルを使ったキャンペーンも壮大だし、キャスティングされるセレブも全員が有名人。どっぷり漬かったアシスタント期間は、クレイジーなスケジュールでしたが得るもののほうが大きかったですね。
望月:すごく恵まれた環境を掴み取ったんですね。
YUKI:ニューヨークっていう街のパワーも大きいと思います。なんでも起こり得る街で、エナジーに溢れています。誰にでも可能性がある街で、明日には人生が180度変わることもあります。僕の周りにも、そんな友人がたくさんいるんです。
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着想源は、NYにある「リアル」と「オルタナティブ」
村上:そんな街で、休日はどんなことをされているんですか?
YUKI:僕はブルックリンが好きで、日々インスピレーションを得ています。もちろんクリーンなクリエイションや華やかなレッドカーペットの仕事も好きですが、僕はちょっとオルタナティブ(※)、例えば少し汚れていたり、強さがあったりするものが好きなんです。そういうインスピレーションは、ブルックリンの方が多いかもしれません。歩いている人のファッションやメイクはもちろん、年齢も人種もさまざま。月並みな言い方かもしれませんが、本当に多種多様な人たちが目の前にいて、自分に制限をかけずに生きようとしています。「こういうクリエイションもありなんだ」「それが当たり前なんだ」という価値観を広げてくれるので、休日はブルックリンを歩き回っています。
※オルタナティブ……従来と違う、主流と異なる、などの意味。
望月:そうなんですね。そして〈RMK〉からオファーが来たとき、最初はどう思ったんですか?
YUKI:実感がなかったですね。本当にびっくりして。日本のビューティーやファッション業界から離れていた期間も長いし、日本の情報が頻繁にアップデートされる環境にいなかったので。もちろん〈RMK〉というビッグネームは知っていました。僕がキャリアをスタートしたとき、最初に使っていたファンデーションがまさに〈RMK〉だったんです。そんな思い入れもあり、少しずつプレッシャーを実感した感じですね。でも、どちらかというとエキサイトメントのほうが大きかった。日本のビューティー業界、特にアジアのビューティーを客観的に見られる立場・場所にいて、経験があるのは長所だと思うんです。客観的な視点を皆さんに伝えて、日本のビューティー業界がもっと面白くなればいい。〈RMK〉と一緒なら、それが実現するかもしれないというエキサイトメントがありました。
望月:なるほど。プレッシャーを力に変えて。「RMK」のどんなところを大切に残しながら、一方で自分らしさや新しさを加えているんですか?
YUKI:〈RMK〉には元来クリーンなイメージがありました。ファンデーションなどのベースメイクはすごく有名なので、ブランドの財産として守りたいです。そこから、僕のエッセンスをどう注入し、どうモダナイズ、アップデートしていこうか考えています。自分らしいオルタナティブな世界観、今の時代に欠かせないリラックスしたアティチュード(※)が注入できたら、いい形のコラボレーションになると思うんです。〈RMK〉の良さと僕の良さ、両方を活かしたい。今は帰国することも増えて、日本の今の時代感や皆さんのエナジー、カルチャーを肌で感じています。1年前には感じられなかった価値観を、僕のフィルターを通してアウトプットしていけるんじゃないかな?と思っています。
※アティテュード…態度、心構え、姿勢などの意味。
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「リアル」な「素肌美」を感性とテクノロジーでアップデート
村上:望月編集長、実際YUKIさんがクリエイティブディレクターになられて、〈RMK〉はどんな風に変わりましたか?
望月:YUKIさんが大事にされている「リアル」に私もすごく共感しています。その象徴的存在が“リクイドファンデーション フローレスカバレッジ”ではないでしょうか?その名のとおりの質感で、現代のニーズを捉えるのがすごく上手ですよね。製品発表会での説明がとても理論的だったのも印象に残っています。「もちろんアーティストとしての感性もすばらしいのに、理論的にお話をされる方だな」って思ったんです。そこも新時代のアーティストなんでしょうね。
YUKI:「リアル」は、本当に大切にしています。やっぱりインスピレーションの源が街に実際に存在している人たちなので、彼らの洋服やカルチャー、言語、価値観を重要視しています。それが「リアル」につながるし、〈RMK〉が大切にしている素肌感、「素肌美」という価値観にもつながっていきます。ただ、「素肌美」だけでは新しくありません。今の時代に合わせた、新しい〈RMK〉の世界観で表す「素肌美」をツヤ感やテクノロジー、カバー力などのアップデートで実現しています。
望月:“リクイドファンデーション フローレスカバレッジ”は、カバー力とストレスフリーを両立していて、今の女性たちにとても優しい。どうやってここに辿り着いたんだろう?って興味深かったんです。
YUKI:〈RMK〉の技術力は僕も感動するというか、すばらしいと思っています。世界に絶対に負けないというか、むしろ勝っている。もっともっと世界に発信していきたいです。
村上:23年春のコスメには、YUKIさんの思いがどう反映されているのでしょうか?
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春コスメなのにブラウン推しの理由
YUKI:〈RMK〉の2023年スプリング・コレクションは「インプレッションズ インアンバー(Impressions in Amber)」(2023年1月6日発売)をテーマに、黄金色の光に包まれるイタリア、ナポリの情景から想像を膨らませました。西日に包まれたエーゲ海のきらめき、ヌオーヴォ城の城壁、それらの現実離れしたファンタジーな世界観と共存するナポリの人たちの日常の喧騒。その対比が一枚の写真のように目の前にあったとき、すごくいろいろな思いが交錯したんです。そこでファンタジーとリアルのコントラストを意識しながら、キーカラーにアンバーを選びました。その色合いと、ファンタジーとリアルのコントラストを質感に落とし込み、マットやグロー、パール、リフレクティブで表現しています。
村上:代表的な製品をいくつか紹介いただけますか?
YUKI:最初に取り掛かったのが、“ザ マット リップカラー”でした。アンバーブラウンという限定色を、このコレクションで提案したかったんです。「春なのにブラウン」です。
望月:意外性がありました。
YUKI:秋っぽくならないよう、春らしいフレッシュ感は絶対に失ってはいけません。彩度にすごくこだわりました。オレンジと黄色、ブラウンのバランスに注目し、何回も、何回も色出ししたんです。春先のトレンチコートにも合わせてもらいたいと思いながら、フレッシュ感のあるブラウン、アンバーブラウンを新しい年の新しい季節に提案します。
望月:やっぱり新しいですね。昨秋のコレクションでも、アイカラーの上下まぶたの塗布するバランスをあえて変えるとおっしゃっていて、新鮮でした。
村上:春にブラウンこそ、オルタナティブですね。YUKIさん世代のクリエイターと触れていて思うのは、既成概念にあらがってやろうという反骨心とかが全然ないんです。世の中にファイティングポーズを取っているっていうよりは、「え?コレ駄目なんですか?」くらい、すごくナチュラルに新しいことをやってのけちゃう。
YUKI:まさにそうかもしれないですね。「春はこういう感じ」とか「秋はこんな風に」みたいな考えは、正直あんまりないんです。もちろん、いわゆる春コスメという存在は知っていますが、その枠で考えなきゃいけないとは思わない。その枠は取っ払ったほうが、もっと新しいものが生まれると思っています。
後編では、引き続き春コレクションについて伺った後、YUKIさんが思うJビューティー(※)の魅力を語っていただきました。
※Jビューティー…メイドインジャパンのコスメや、日本特有の素材や技術を用いたプロダクト開発、日本古来の美の習慣などに表される日本の美を象徴する総称。
EDITOR
DEPACO編集部
編集長 望月
新聞記者やビューティ業界紙の編集記者を経て、大丸・松坂屋に入社。化粧品各社の戦略やビジネスなど、ビューティ業界を見つめて早10数年。年齢に伴う肌悩みに向き合いつつ、無理をしない「ながら美容」を追求する編集部最年長。愛犬の散歩で1日平均1万歩の健脚が自慢。
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大丸・松坂屋によるデパコスの“メディアコマース”「DEPACO」の特集「#デパコスの未来」では、「DEPACO」の編集長・望月が、ファッション&ビューティーのニュースメディア「WWDJAPAN」の村上要編集長と、毎回ゲストを招いて百貨店ビューティーやデパコスの未来を語り合います。今回のゲストは、〈RMK〉のクリエイティブディレクターを務めるYUKIさん。前編は、クリエイションの源泉と23年春コレクションについて伺いました。