【前編】アナウンサーから「花のある豊かな生活」へ転身。“自分らしく生きる”とは?フラワーアーティスト・前田有紀さんにインタビュー〈十人十色の美衣食住〉
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人気職業である“テレビ局アナウンサー”から“フラワーアーティスト”に転身されましたが、花への興味はどのようなきっかけで持たれたのでしょうか?
街中で育ったので、小さいころから自然に対する強い憧れをもっていました。アナウンサー時代は自然の流れとは真逆の不規則な生活だったので…暮らしを楽しむ余裕がなくて、余計に自然への恋しさが芽生えたのだと思います。ある時、ふとスーパーで花を買って部屋に飾ったら、花が一輪あるだけで、こんなにも世界が変わるんだということに気づいたんです。それから飾る花が少しずつ増えるようになって、花を習いたいと思うようになり、そのうちに自然に関わる仕事がしたくなって、花の世界に飛び込むことになりました。
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イギリスに留学されて見習いガーデナーとしても働かれていたそうですが、花の勉強をされるために“イギリス”を選ばれた理由を教えてください。
花と自然に関わる仕事がしたいと思っていましたが、実際にどういう仕事があるのか未知の世界でした。それでいろいろと調べてみたら、イギリスの庭仕事やお花屋さんがよく出てきたので、そこで学んでみたいという気持ちが芽生え、留学先をイギリスに決めたのがきっかけです。
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実際、イギリスに留学されてどのようなことを感じられましたか?
半年間のイギリス留学中、前半はロンドンのフラワースクールに通い、後半は田園風景が美しいコッツウォルズでガーデナーの仕事を勉強しました。
留学する前、花は比較的女性がたしなむものであり、花が好きな方はご年配のほうが多いイメージがありました。でもイギリスに行ってみると、年代や性別に関わらず「花が好き」という方に多く出会い、視野が広がりました。ロンドンの街を歩いているとちょっとしたバルコニーでハーブや野菜を育てている家を目にすることが多くて、都会の中でも自然のある暮らしを実現している方が多いと感じました。
庭仕事は力仕事なので、筋肉モリモリの方ばかりの職場で(笑)、ガーデナーも全員男性でした。私もそこで重い土やホースを運んでいたので、汚れてもいいような格好で作業していたんです。アナウンサー時代は身だしなみを整えて、テレビの前で笑顔になることが仕事の中心でしたが、庭仕事をしていくうちに「今のほうが自分らしいな」と気づきました。それからは、人から見てどうとか、年齢的にどうあるべきかという作られた固定概念から離れて、「自分らしくあるために何をすべきか」という所に焦点を当てた生き方ができるようになりました。これは、とても大きな自分の財産になりました。
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帰国後もフラワーショップで修業を積まれたとのことですが、イギリスと日本で何か違いはありましたか?
帰国後3年ほどフラワーショップに勤めていましたが、日本では花をギフト用に考えていて、それ以外の目的でお花屋さんに来られる方が少ないと感じました。お店で可愛い花を揃えてもお客さまが来てくれないもどかしさがあって、もっともっと花を身近に飾る人を増やして、花の裾野を広げていけないかと思うようになりました。でもこのコロナ禍で家に花を飾る方が格段に増えてきて、少しずつみなさんの意識が変わってきたように感じています。
コロナで大変なことも多かったですが、花の世界にとってはサブスクリプションサービスが増えて、暮らしの中で自分のために花を飾る人が増えたことが実感できたと思っています。今はwithコロナ時代になってきましたが、花と暮らすことの心地良さを実感した方はたくさんいて、引き続き花を家に飾る方は増えているようです。花とより良く暮らしたいと思っている方に、もっと素敵な花を届けられるように頑張っていきたいですね。
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フラワーアーティストとして独立しようと思われたきっかけや、その時の思いなどについても教えてください。
長男を出産するタイミングに独立しました。女性のキャリアを考えた時に妊娠・出産はキャリアをストップする期間と捉える方も多いと思いますが、私は転職して今の仕事に就いたので、その期間に休んでいたくなかったんですよね。そこで、少しでも前に進めるように起業する必要があったという感じです。
最初は花のオーダーも多く取れなかったので、友人が依頼してくれる誕生日のブーケを作ったり、お祝いの花を届けたりとコツコツとやっていました。そしてお会いする方に「独立して花屋を始めたので、何でも依頼してね」と声を掛けるようにしていたら、オーダーが増えてきて、ちょっとずつ広がり今の形になりました。やりたいことをなるべく口に出して周囲に伝えることで、覚えていてくれた方が声を掛けてくれたので、言葉にすることの大切さを実感しました。
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昨年「NUR(ヌア)」を表参道にオープンされました。店舗で扱われる花をセレクトする基準などはありますか?
実は最初に立ち上げたのは「gui(グイ)」というブランドです。花の世界の裾野を広げることを大事にしていたので、移動販売を中心に今まで花屋さんがなかった場所など、いろいろな所で花を販売していました。でもコロナ禍で出店を一旦セーブした時にオンラインでの販売に力を入れるようになったんです。サブスクリプションサービスで購入してくださる方も多くなりましたが、オンライン化したことで、花を選んで買う嬉しさや楽しさをお客様にリアルに体験していただいたり、花を深められる場所を作りたいと思うようになって、「NUR(ヌア)」をオープンしました。
花のセレクトについては、咲き方がユニークだったり、1輪で飾っても絵になる花が並んでいます。品種改良も進んで、ニュアンスを帯びた色味の花が増えてきていますね。いろんな表情を帯びた花を選ぶのは、花を楽しむ醍醐味のひとつかもしれません。お店の花器は花のイメージに合わせてヴィンテージのものを使っていますが、販売している花器は家で花を飾りやすいサイズ感のものをセレクトしています。せっかく買っても扱いにくいと使う頻度も減ってしまうので、花を飾っていない時でもインテリアとして飾りやすいものや機能性があるものを意識していて、花と一緒に花器を買っていかれる方も多いです。
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さまざまなジャンルのブランドやメイクアップアーティスト、美容業界とのコラボレーションも多い印象です。その際に心掛けていらっしゃることはありますか?
コラボレーションの時は、組む相手の世界観を大事にしたいと思っています。そのブランドさんが大切にしていることやどんな雰囲気を作りたいのかなど、打合せをしっかりして花をセレクトしています。最近のコラボレーションですとパレスホテルでイタリアのジュエリーブランドの展示会のお手伝いをさせていただきました。本国の許可が必要だったので花材をリストアップしたり、使う色味も伝えたりしながらの作業で、花のボリュームも規模も大きかったので印象に残っています。
展示会で使い終わった花は、期間も長いので捨ててしまうことが多いのですが、すべてとはいきませんでしたが、この展示会ではできる限りのお花をスタッフのみなさんに持ち帰っていただきました。なるべく花を捨てずにと考えているので、とても良かったです。
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花にあまり興味がない方へ向けても、「花を楽しむためのコツやアドバイス」があればぜひお願いします。
花に対してネガティブな思いを持たれている方って意外と多いですよね。それは世話が大変なのと、すぐ枯れてしまう罪悪感があるからじゃないかと思うんです。私にとって花は暮らしを豊かにしてくれるものですし、「枯れていくことも美しさである」ということをお伝えしたいです。花には時間が経つことの良さもあって、花びらの先端からシワができて茶色くなって、少しずつ枯れて散っていく過程も美しさだと感じます。なので、枯らしてしまう罪悪感を持つ方が減るといいですね。
花は水をこまめに替えるなどお手入れが必要ですが、お花屋さんに行ってお店の方に相談して、なるべく手間がかからない花から選ぶのもおすすめです。いつもより花が長持ちすると枯れていく過程も楽しめたり、ポジティブなイメージに変わってくると思うので、そういう方が増えたらと。花屋としては1輪からでもお店に来てくれたら嬉しいです。
<前田有紀さんプロフィール>
10年間テレビ朝日のアナウンサーとしてご活躍後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで3年の修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近に」という思いから、イベントやウエディングなどの空間で花の在り方を提案する。2018年秋に自身のフラワーブランド「gui(グイ)」を立ち上げ、2021年4月に東京・表参道にフラワーショップ「NUR(ヌア)」をオープンさせる。
後編では、前田さんの仕事観や新たな活動について伺いました。
■【後編はこちら】好きを仕事に。ワークライフバランスの秘訣とは?→
編集/㈱メディアム 成田 恵子、執筆/北村 文、撮影/Suat Koylu、メイク/山下 光理
EDITOR
DEPACO編集部
副編集長 秀島
プロモーション歴10年以上、DEPACOの生みの親。ビューティ系企画~編集~広告~イベントまで幅広く携わる。経験とはうらはらに、百貨店入社をきっかけにデパコスに触れ始めた“保守派”でかつ、"自信はないけど少しはこだわりたい派"。趣味はアート&銭湯めぐり。
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“十人十色の美衣食住”
ひとそれぞれ、さまざまな「美」を大切にされている方々に迫ります。
今回のゲストは10年間テレビ朝日のアナウンサーとしてご活躍後、2013年にイギリスで花やガーデナーの勉強するために留学され、帰国後、フラワーアーティストへ転身された前田有紀さんです。「好き」を仕事にすることを実現された経緯や、ご提案される「花のある豊かな生活」についてお話を伺いました。