【前編:歌人・伊藤紺さんにインタビュー】短歌づくりは、「宝石発掘」。書いては捨ててと繰り返し、「歌」になる瞬間を探している。〈十人十色の美衣食住〉
01
短歌に興味を持たれたきっかけを教えてください。
小学校か中学校の頃の教科書に俵万智さんの歌がのっていて、それが短歌との最初の出会いだったと思います。
その時は特になにかを感じることはなかったんですが、大学4年生の年末、突然「あの短歌ってすごいのかも」と思い出して、書店に行き俵万智さんの歌集を買ったのが、興味を持つきっかけでした。
大学のころってコミュニケーションが上手な人がもてはやされるようなところがあるじゃないですか。その頃のわたしは話すことがどんどん苦手になっていて、日々のフラストレーションが無意識にたまっていたようで、毎日日記を書いていたんです。その時の本当の気持ちをどこかに書かずにいられなかったというか。
自分の感情のままにいいこともイヤだったことも書いていたので、死ぬ前にはその日記を必ず燃やさないといけません(笑)。今思うと、自分の気持ちにしつこく向き合う練習になっていたのかもしれません。
そのとき何冊か歌集を買ったんですが、佐藤真由美さんの『プライベート』という歌集を読んで自分でも書いてみたくなり、翌年の元旦から歌を作りはじめました。
02
初めて短歌をつくった時、難しさは感じませんでしたか?
あんまり覚えていないんですが、さっと書いて完成というわけではなく、何時間かかけてつくったと思います。でも10日目ぐらいにつくった歌は最初の歌集『肌に流れる透明な気持ち』に入っているので、初期にものすごく難しく感じたというわけではなかったと思います。
1日1首つくれたらいいなと思っていましたが、とにかく楽しくて夢中でした。書きたいことがたくさんあって、移動時間もずっと短歌のことを考える生活が数カ月続きました。
“短歌に選ばれる”という言い方をすることがあるのですが、短歌って特に向いてる人がいる気がします。
31文字って、やっぱり最初はすごく短いと感じるんですよね。だからどうしたらここに収まる、いい形になるだろうと何度も考えていくんです。短くするだけでなくリズムや音も歌の印象に大きく関わります。そういう部分まで作り込んで生まれる、話したり、散文では表現し得ないことにこそ自分の言いたいことがあったのかもしれないですね。全然飽きなかった。向いていたんだと思います。
03
短歌をつくることに変化はありましたか?
半年くらいで書きたいことがあまり思いつかなくなり、短歌がうまく書けない時期に入ったように思います。
今思えば、書こうとしていることが歌になるものなのか、歌にならないものなのかわかっておらず、歌にならないものを歌にしようと躍起になっていた気がします。でもそれは「歌とは何か」が自分の中に少し生まれてきた証拠なのかなって。そこからずっと「書けない」は常に隣にいるものです。
ここ数年で「書けなくて普通」だと思えるようになりました。今書けなくても数日後にそのメモがふっと歌になることもあるので、書けなくて怯えてる暇があったら、歌にならなくてもメモを書いたほうがいいなって。
もちろん苦しいですけど、「数日経てば状況は変わる」と俯瞰できるようになったので、以前ほど苦しさを感じなくなりました。
自分にとっての制作は、宝石発掘に近いです。目星をつけた洞窟みたいなところに行って、ここかな?という部分を掘って美しい石を探すみたいな。それっぽいけど磨いてみるとただの石ってこともある。宝石のない洞窟に入ってしまうと1カ月通い続けていても何もない。でも実は今の自分のやり方では届かないだけで、その奥にものすごい原石が埋まってるかもしれない。毎日作業着で、地道に発掘してるみたいな気持ちです。
04
短歌のテーマはどのように決めていますか?
特定のテーマを設定して短歌をつくることはなくて、テーマは自分のなかに育っていくものだと思います。“自分にとっての真実”を書いているという表現をしているんですが、何か動かしようのないもの。感情やイメージなど、人に話しても共感は得られないかもしれないけど、どこかでいつかこの世の真実に通じるかもしれないような、対称性のある、ガラス玉みたいなものを目指しているというのが、言葉にするなら近いかもしれません。
普段短歌にしたいことをメモしておくのですが、あるとき、とある歌人にメモを見せてもらったら、当然ですけど、自分のメモと全然違って驚きました。その人は風景そのもののメモが多かったのですが、当時わたしのメモは感情が中心だったんですよね。
自分が実際に思ったことや強く突き動かされたイメージの中で、そういう真実に出会えるような気がしています。
05
31文字に言葉を凝縮するコツを教えてください。
うーん、コツとかはわからないです。でもシンプルに思える感情であっても、本当にそうかどうかは作ってみないとわかりません。
例えば最初はその感情に「寂しい」という言葉をあてていたけど、作っているうちにその感情の根本には寂しさではなく、むしろ相手を笑顔で送り出すような、明るい気持ちだった、ということに気づいたりします。
短歌にしようとすることで、その感情の全体像がやっと見えてくることは多い。だからピンとくる言葉が出てくるまでメモを書き続けます。出てきたらその言葉を頼りにまた書いて、また次のピンとくる言葉を探す。
書いては捨ててです。長文になったり、単語になったりを繰り返しながら形にしていきます。
これも抽象的な話なんですが、文字が31字並んでいる状態から手を加えていくうちに、「歌」になる瞬間がある。ちゃんと一本になって、グーンとうねりが出てくる。言葉がただ収まっているのではなく、歌になっているかどうかは歌人がみんなそれぞれもっている感覚だと思います。
06
コラボレーション企画で短歌をつくる時に気をつけていることはありますか?
説明された資料や言葉をそのままの言葉や意味で受け取らないようにしています。
コピーやビジュアルを、見て、忘れて、見てを繰り返しながら自分の中にイメージをつくっていく時間が必要なので、制作時間にはある程度余裕がほしいです。
意味で理解して頭で書こうとすると、どうしても薄っぺらくなってしまう。まず自分のものとしてイメージを取り込んで、そこから普段の作品を作るように書きたいことから書き始めます。
だから最初は関係ない歌を作っていますね。だいぶ遠回りですが、そうしないとうまくいかないんです。
後編では、伊藤さんのライフスタイルや愛用品について伺いました。
<伊藤紺さんプロフィール>
歌人。2016年より作家活動を開始。著書は歌集『気がする朝』(ナナロク社)、『肌に流れる透明な気持ち』、『満ちる腕』(ともに短歌研究社)。グラフィックデザイナー・脇田あすかとの展示作品『Relay』や、〈オサジ〉のヘア&ボディーケアシリーズ「Fall Bouquet」などブランドへの短歌制作、NEWoMan SHINJUKU「OPENING DAYS 2023SS」では特別展示「気づく」を開催し、書籍刊行以外にも活躍の場を広げている。
Instagram:@itokonda
編集/㈱メディアム 成田 恵子、執筆/北村 文、撮影/鈴川 洋平
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EDITOR
DEPACO編集部
エディター 高梨
旅行誌の出版社で編集職を10年以上経験。出産を機にキャリアを見つめ直し、今後は大好きな美容の情報発信をしたいという想いでDEPACO編集部へ。美容はスキンケアやベースメイクでの“土台作り”が好き。趣味は旅と料理。
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“十人十色の美衣食住”
ひとそれぞれ、さまざまな「美」を大切にされている方々に迫ります。
今回のゲストは歌人・伊藤紺さんです。たった31文字の中で表現される彼女の短歌は心のどこかにある感情や何気ない情景を呼び起こすものが多く、共感を覚える人の輪が広がっています。
短歌をつくるようになったきっかけや短歌の魅力をはじめ、愛用品やプライベートの過ごし方についてお話を伺いました。