現役の時からカフェが好きで、お休みの日にいろいろな場所のカフェを巡っているうちに、「いつか自分のお店を持ちたいな…！」と思うようになりました。最初はひとりでやるイメージでしたが、旦那さんが一緒にやろうと言ってくれたので、思っていたよりも早くカフェをオープンできたんです。

最初は北欧風でほっこりできる、アットホームな雰囲気をイメージしていました。バレーってチームスポーツなのですが、引退すると家族を持ったり地方に住む人もいたり、とバラバラになって集まれなくなってしまいがちなんです。だからフラッと立ち寄りやすい場所があったらいいな、と思っていたので。でも今は全然イメージしていたテイストではなくって(笑)。…というのも、料理をはじめ経営面を含めたカフェ運営は旦那さんに任せているので、どちらかというと旦那さん色というか、ちょっと男っぽいアメリカンなテイストになっています。もちろん私もそういう系統も好きなのでお互いに話し合いを重ねて、女性にも入ってもらいやすいようなポップな感じも入れてもらいました。大阪で試合があった時に来てくれるバレーの仲間もいるので、“フラッと立ち寄りやすい場所”という点は叶っていると思っています。

もともとお菓子が大好きで、中でもカヌレとスコーンが一番好きということもあって、その2種類を作っています。でも学生時代はバレンタインに友達と一緒に作る程度だったので、現役時代のチームメイトで製菓講師をしている友人に基礎を教えてもらいました。それから自分なりに材料や配合を変えながら一番好きな食感や味を研究して、小麦粉選びからこだわって丁寧に作ることを特に意識しています。

スコーンは作り方のコツを練習すればわりと簡単に作れると思いますが、カヌレは生地をねかせたり、型にバターやはちみつを塗ったり、いろいろと手間がかかります。室温によって食感も変わるので、外側はカリッとしながら中身はモチっとさせるのが難しくて、試行錯誤しましたね。自分でもいろいろなお店でカヌレを買いますが、外側があまりカリッとしていなかったり、中身も生っぽくなっていたりと食感がお店によって違うので、カヌレって奥が深くて、面白いです。

カヌレやスコーンは時間で食感が変化してしまうので、できるだけ焼き立てのものをその日のうちに提供できるように、基本的には毎日焼いています。コロナ禍ではお客様も減ってしまい、コーヒーと焼き菓子が中心となりました。でも最近ちょっとずつお客様も戻ってきて、ランチメニューもご好評いただいているので、食事を中心にしていこうかと相談しています。もしかしたらカヌレとスコーンは今後曜日限定のメニューになるかもしれません！

本当はいろんな種類のお菓子を作りたいと思っていて、試作品は作ったりしています。でも1日に3～4種類の焼き菓子を作れるほど、オーブンが大きくないのです。カヌレ作りはオーブンを使う時間が意外と長くて、今すぐ種類を増やすのはちょっと難しい状況なので、グルテンフリーや米粉などを使った素材違いのカヌレを作ってみようかと考えているところです。

カフェで働く上でも“チームワーク”は大事だと思いますし、お客様に対する“思いやり”も同じですね。バレーは“つなぐ”スポーツなので、自分が球を触る時も次に球を受ける人のことを考えるんです。みんなで“つなぐ”には“思いやり”が大切で、バレーをしている時も一番大事にしてきたことなので、そこは今にもつながっているかなと思います。“つなぐ”ために“思いやる”という感じは、バレーを通してずっと教えてもらってきたことなので、これからも大切にして、生かしていきたいと思っています。

いちバレーボールファンの方と同じ感覚です。今回は応援サポーターという形で普段よりも近い所で応援させていただきましたが、気持ちは全く変わらず、バレーとは一線を引いたあくまでファンという気持ちで応援していました。バレーの試合を観るのは好きですし、これまでもテレビはもちろん生観戦もしていますが、ファンの方と一緒にバルーンを叩いて「がんばれー」という感じです。

解説のお仕事をやらせていただくこともありますが、バレーの試合の説明が上手にできなくて…私はやっぱりファン寄りだなと感じています。私にとってバレーは楽しかったものなので、そのままの楽しさを伝えたいという思いはありますが、解説のためにバレーを“勉強”するとなるとちょっと違う感じがしてしまうんです。これからもバレーボールファンとして、楽しんで応援していきたいと思っています。

東京オリンピックの開催が1年遅れてしまいましたよね。パリオリンピックまで2年しかない中、次のオリンピックで結果を出せるチームを早く作るために、代表監督に復帰された眞鍋監督が私たちを集めて下さって「アントラージュ」が結成されました。

「アントラージュ」メンバーで活動することはありませんが、バレーの試合や大会があったら盛り上げるための協力をしたり、練習やボール拾いの手伝いに参加したこともあります。また、今の選手に私たちが経験したことを教えてあげてほしいと相談もあったので、現役選手からの質問に、これまでの実体験を伝えながらコミュニケーションを取っています。眞鍋監督が新しく作ってくれたポジションのような感覚で、いつもよりはちょっと近い所で応援させてもらっている感じです。

バレーのことだけではなくて、オリンピックがどんな感じだったとか、そこまでの過程や裏側ではどんな生活をしていたのかなど、オリンピックに初めて出場する選手もいるので、さまざまなことを伝えています。今女子代表チームのキャプテンを務めている古賀選手と話すこともあります。練習に参加した時に、「沙織さんがキャプテンをしていた時はどんな感じだったんですか？」など、質問をしてくれたりします。古賀選手はチームを引っ張ることができる素晴らしい選手です。私はどちらかというとキャプテン向きではなくて、終わってからもっとこうしたらよかったなと思ったこともあったので、そういう部分は全部伝えるようにしています。

＜木村沙織さんプロフィール＞
17歳で全日本代表に召集され、「スーパー女子高生」としてアテネオリンピック出場に貢献。スーパーエースとして多くの国際大会で存在感を示し、ロンドンオリンピックでは28年ぶりのメダル獲得の立役者に。その後も世界最高峰リーグであるトルコで活躍し、リオデジャネイロオリンピックでは全日本チームのキャプテンとしてチームを牽引した。2017年に現役を引退後、夫とカフェ「Sunny-ThirtyTwo-Club」を営む傍ら、YouTubeチャンネル「SAORI&J STYLE」やInstagramなどから発信するなど幅広く活動中。

後編では、木村さんの美容好きな一面のルーツについて伺いました。

編集／㈱メディアム 成田 恵子、執筆／北村 文、撮影／鈴川 洋平