金山：私自身が日本生まれ、フランス育ちというバイカルチャーなので、架け橋になれる仕事はとても魅力的でした。さらに私は女性で、アラフォーで、ラグジュアリーブランドの経験がなく、オファーを頂いたのは日本で働き始めて4年目の頃。そんな私を信頼して賭けてくれることが嬉しくて、この役職をお受けしました。想像していた以上に刺激的で、飛行機からダイブするような毎日です(笑)。

村上：外資のプレステージブランドは、毎日がスピーディーな印象があります(笑)。

金山：そうですね。新たな発見のある毎日はとても刺激的です。当初は私が専門としてきたマーケティング・コミュニケーション領域の経験を求められていると思ったのですが、〈ジバンシイ〉はラグジュアリーブランドゆえに接客の現場である小売店の存在感が大きくて、それがとても面白くて、吸い込まれていくような感じです。

望月美穂「DEPACO」編集長(以下、望月)：金山社長から見て、小売店の面白さはどこにありますか？

金山：現場で働くビューティー コンサルタント(BC)はとても元気。BCコミュニティをどうモチベートするか、が一番の課題であり、やりがいを感じます。私は新卒でセフォラ(Sephora、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトンのグループ会社が運営する化粧品専門店)に入社しましたが、その頃のカリスマティックなボスも現場第一主義でした。

望月：社長に就任されてからは、現場のBCさんとも会われました？

金山：はい、店舗には頻繁に通っています。

望月：それは現場の方も嬉しいでしょうし、モチベーションが上がりますよね。

金山：バックヤードさえ好きですね(笑)。劇場のバックステージのような感覚で、お店によって雰囲気が全く違います。そういうことも含め、毎日が発見の日々です。

村上：BCの方々は、どんなところが素敵だと思いましたか？

金山：コロナ禍では店頭の優先度が変わってしまい、今は再建の時期と捉えています。コロナ禍は、BCさんは本当に辛かったと思います。バックステージは力仕事。製品知識やメイク技術などの専門性も求められます。その一方で接客では常に笑顔でベストを尽くさなければいけない。日々感謝していますし、彼女たちを全力でバックアップしたいです。

村上：プレステージブランドが集まる百貨店の魅力や、その中にある〈ジバンシイ〉のカウンターの魅力をどう感じていますか？

金山：魅力は人と体験だと思います。今のお客様はボーダーレスに、ECで購入したりドラッグストアに行ったり、物や時、気分によって購入場所を変えています。その中で百貨店は接客の場所で、自分に合ったアドバイスや+αの情報を得ることができるのが最大の魅力です。ビューティーだけじゃなく、ファッションも同様です。自分のことをよく知ってくれる店員さんに出会えると、また行きたいと思いますよね。

望月：金山社長がこれまで歩んでいらっしゃったキャリア、セフォラやマスブランドにはないポイントですよね。

金山：そうですね。ただ若い世代にとって、特に初めての百貨店のカウンターは「買わないといけないんじゃないか？」と躊躇(ちゅうちょ)してしまうときもあるでしょう。そんなお客様にはセミセルフショップで商品を触っていただき、もっとメイクアップを知りたくなったり、プレゼント用の特別なラッピングやサービスを体験しに来たり、百貨店のカウンターを楽しんでいただきたいです。各チャネルには、それぞれの役目があると思っています。日本の接客レベルは高いので、海外からのお客様は日本のサービスが受けたくてカウンターにいらっしゃると聞きます。日本展開するブランドとして、BCは強みであり、宝物だと思います。

望月：社長に就任する前は、〈ジバンシイ〉をどういうブランドだと考えていましたか？

金山：ファッションの〈ジバンシィ〉については知識もあり、スーツやフォーマルな服、メッセンジャーバッグのイメージを持っていました。ビューティーは日本では店舗数が限られているため、「まだまだこれから」という印象でした。そして“おとなしいブランド”というイメージもありました。ただ就任してみたら、想定していたのとは違うところもありました。

望月：イメージしていた〈ジバンシイ〉とは、どのように違いましたか？

金山：ブランドの歴史を探ったり、今購入してくださっているユーザーの分析を行ったりすると、若い世代にも支持されていることに気がつきました。40～50代の顧客様もいらっしゃいますが、20代も多い。先日、博多や小倉の店舗を回ったときは、制服姿の高校生のお客様を見かけました。全国的に年齢・性別を問わず、「ランテルディ オーデパルファム」や「ソワン ノワール ローション N」は人気です。ファッションメゾンを持つビューティーブランドの多くはブランドイメージが強く、“ブランドを着る”ことも魅力の一つです。一方でファッションも含め、〈ジバンシイ〉は、イメージをまとうのではなく、“自分をどうやって美しくするか”というスタンス。「自分なりに着こなす」というブランドフィロソフィーを持っています。その哲学は全面に押し出しているものではないのですが、ユーザーに響いているのではないかと思います。

村上：確かに〈ジバンシイ〉のアイテムは、意思があるから強いイメージの赤リップを選ぶという買い方もできるし、ナチュラルで薄づきだけどしっかりカバーしてくれるから私らしさを表現するという文脈でも使えるし、確固たるファッションの〈ジバンシィ〉のイメージもある。どれかが突出しているわけではなく、いいカンジに調和していますね。

金山：自分らしさを抑えず、さらに自分の個性を引き出してくれるブランドだと解釈しています。そのフィロソフィーをもっと強く打ち出していきたいですね。

望月：歴史のあるクチュールブランドでエレガントでもあるけれど、現代女性にふさわしいエッジーさもある。本当に両極端が調和していますよね。まさに今の世の中の雰囲気に合っている、求められるブランドですね。

後編では、金山社長の愛用アイテムを紹介していただいた後、常に革新的に進化してきたブランドの今と未来について語っていただきました。