

【小林涼子さん/女優・実業家】俳優・経営者として考える「人を元気にする仕事」とは?〈十人十色の美衣食住【前編】〉

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小さいころから俳優、モデルとして活躍されてこられましたが、特に印象に残っている作品や役柄を教えてください。
どの作品も印象に残ってますし、自分にとってはかけがえのない作品であることには変わりはありません。その中でも、自分自身が心から向き合えた作品は特に印象深いですね。そういう作品は年代ごとにあって、10代の頃であれば『砂時計』とか『魔王』がそうですし、ここ最近では『虎に翼』です。
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役者として取り組んでみたいと考えている作品や役柄はありますか?
これまでは、「働く女性」の役を演じる機会は多くはありませんでした。でも『虎に翼』では仕事を大切にしながら家庭との両立に悩む女性を演じることができました。
実は私自身、会社を経営していて、月曜から金曜までオフィスに通っています。
満員電車に揺られて出勤しますし、月曜の朝は憂鬱だし、金曜の夜は遅くまで仕事をしていることもあります。そうした会社で働く人ならではの感覚や空気感を、今はリアルな実感として理解できるようになりました。
また、AGRIKOは女性が多い会社なので、キャリアについてよく考えるんです。それは仕事としてのキャリアだけではなく、一人の人間としてのライフキャリアもあります。家庭に入る選択もあれば、仕事を続ける選択、あるいは、その両方を両立していく道もあります。そうしたバランスに悩んだり葛藤したりする女性を、今の年齢だからこその実感を持って演じてみたい、という想いが強くあります。
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俳優としてご活躍される中、なぜ農業に興味を持つようになったのでしょうか?
10代、20代の頃は、野心もあり「このまま俳優としてキャリアを築いていくんだ」と思っていました。でも、実際には自分の思うようにはキャリアを描けなくて。
俳優という仕事は、頑張りが見えにくい職業でもあるじゃないですか。資格を取れば評価されるわけでもないし、何ができるようになれば次につながるのか、どうすれば良い役をもらえるのかも分からない。そんな中で、自分の気持ちとうまく折り合いをつけられず、日々頑張っているのに結果が出ないことに疲れてしまった時期がありました。
そんな時、父の大学時代の同級生が新潟で農家を営んでいて、「遊びに来ないか」と声をかけてくださったんです。家族旅行を兼ねて新潟を訪れたのがきっかけで、それ以来、通うようになりました。
最初は本当に単純に、野菜が「おいしい」、農業の手伝いが「楽しい」という気持ちだけだったんですが、その農家さんのところにいらっしゃる100歳を超えるおばあちゃんが、私を元気にしてくれました。
当時は、自分のキャリアや年齢との向き合い方に悩んでいました。東京では30代半ばになると中堅として見られますし、結婚や将来について考える機会も増えます。でも、おばあちゃんにそんな悩みを話したら、「何言ってるの。あんた、まだプリプリじゃない」と笑われたんです。
おばあちゃんから見たら、私なんてまだまだ若い。その言葉を聞いて、「そっか、私はまだプリプリなんだ」と、なんだか肩の力が抜けたんですよね。しかも、苗箱を少し洗っただけでもすごく喜んでくれるし、田植えを手伝えばたくさん褒めてもらえる。そんな環境の中で過ごしているうちに、少しずつ元気を取り戻していったんです。
新潟の人たちの温かさに触れる中で、農業は作物を育てるだけではなく、人と人との関わりの中で成り立っているものなんだと感じました。それから農繁期には休みを取って新潟に通っていました。今では親戚のような距離感で接していただいていて、私にとって大切な居場所のひとつになっています。
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2021年に株式会社AGRIKOを設立されました。起業するまでの経緯を教えてください。
新潟との関わりを続ける中で、家族の体調不良やコロナ禍など、思うように動けない時期がありました。そんな時に気づいたのが、私が楽しく農業できているのは多くの人たちの善意や思いによって支えられているからだということでした。
それまでは私自身、「新潟が好き」「農業が楽しい」という気持ちで関わっていました。でも、コロナによって手伝う人が来られなくなれば良い時期に田植えができなくなるかもしれない。そうなれば農作物の生産にも影響が出る。そんな状況を目の当たりにした時に、この場所や人とのつながりに、もっと向き合わなければいけないと思うようになったんです。
振り返れば、私が「楽しい」と感じられたのは、その環境を支えてくれる人たちがいたからでした。農業は本当に大変なこともたくさんあるのに、私はその一番大変な部分を見ないで済んでいただけだったんですよね。
新潟でたくさんの元気をもらったからこそ、今度は自分が何かを返したい。農業を続けたい気持ちがあっても、病気や環境で諦めるのではなく、みんなが継続的に関われる持続可能な農業の形をつくりたい。そう考えたことが、起業のきっかけになりました。
現在は会社として人を連れて新潟へ行き、社員の農業体験、地域との交流を行ったり、自社でも畑を所有し、ホップの生産などにも取り組んでいます。私だけで植えられる苗やできることは限られているので、AGRIKOとして主体的に地域や農業に関われるような仕組みをつくりたいと思っています。
05
起業されるまでに大変だったことはありますか?
手続きですね。俳優の仕事って、「台本を読む」「覚える」「演じる」という手順なんです。書類を作ったり、パソコンで事務作業をしたり、各種の手続きをするといったことは全くなく、これまでほとんどマネージャーさんにお願いしていました。
だから会社を始めた当初は、本当に何も分からなくて。本を読み勉強しても経験がないので、「どうやるんですか?」「ここには何を書けばいいんですか?」という状態で、「間違えたらどうしよう」と不安ばかりでした。印鑑ひとつとってもそうで、訂正印の押し方すら知らなかったんです。間違えたところをペンでぐちゃぐちゃっと消したら、「それじゃダメだよ」と怒られたこともありました。恥ずかしい思い出です。
最近では必要に応じて、各部署や手続きが得意な方がきちんと対応してくれるので、甘えさせてもらい、ほっとしています。周りのメンバーに恵まれ、会社ってとても心強いなぁと思っています。
06
俳優業と経営者の仕事の違いはありますか?
実は、そのふたつはよく似ているんです。
俳優はカメラの前に立つ仕事ですが、その裏にはヘアメイクさんやスタイリストさん、制作スタッフの方々など、本当にたくさんの人がいます。一つの作品を作るために、それぞれが自分の役割を担っている。まさに分業で成り立っている仕事なんです。
そう考えると、会社も同じです。みんながそれぞれの得意分野を持ち寄り、一つの目標に向かって進んでいく。チームプレーが重要な仕事だと思います。私自身、会社を立ち上げた当初は何も分からなかったので、できる人たちにたくさん助けてもらいました。
当たり前ですが、今、こうして取材を受けている間にも、各農園ではそれぞれの現場が動いていますし、バックオフィスも稼働しています。創業当時は一人だったので、こういう環境がいまだに信じられない想いなのですが、それぞれのメンバーが自分の役割を果たしてくれているからこそ、会社が前に進めているんだと思います。
もちろん今でも、分からないことも多いです。教えてもらったり、お願いしたり、日々の困難を受け入れて、支えてくれる仲間がいる。だからこそ、挑戦できる。改めてチームワークの大切さを感じています。
俳優と会社経営は一見まったく違う仕事に見えます。でも、自分の得意なことを担い、できないことは仲間に任せながら、一つの目標に向かって進んでいくという意味では、とても似ていると思います。
全然違う世界だと思って飛び込んだのに、やってみたら意外と違わなかった。今はそんな感覚です。
経営もですが、農業も、一見すると異色で今までのキャリアとはまったく違うように見えるんですが、私にとっては創作や表現を支える大切な「インプット」のような存在でもあるんです。そしてAGRIKOには実はアート事業もあるんですが、表現活動という意味では俳優業とも近い部分があるような気がしています。
絵画は静岡県牧之原の目の前に海が広がる場所に暮らし、採取した流木やその他の漂流物などを利用ながらスタジオをセミセルフビルド。自然と調和しながら暮らし、作品制作を行うYU KOBAYASHIのダイナミックなアクリル画。
手前はYUTO YAMASAKIによる大小様々なサボテン、うねった幹に咲く花など、生命力を感じさせるユニークな植物オブジェ。
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俳優業と農業を並行して行われる中で、意識されていることや相互に影響はありますか?
私はもともと、農業に関わることでたくさん元気をもらってきました。土に触れたり、作物が育つ姿を見たり、収穫したものを食べたり、「今日は何を食べようかな」と考えることは、すごく気持ちを元気にしてくれます。そうやって農業や自然からもらったエネルギーを俳優の表現活動に還元していく。そんな循環が当初から自分の中にはあるように感じていますし、会社となった今も変わりません。
かといって、最初からそういうことを意識していたわけでもありません。当時は目の前のことに必死でしたし、「これをやらなきゃ」と走り続けていただけでした。でも会社も6期目に入り、改めて振り返ってみると、俳優、アート、農業という一見別々に見える活動が、最終的には、自分自身が心地良くいられる場所や、人の心を元気にすることにつながっている。今はそんなふうに感じていますね。
後編では、小林さんが取り組んでいる都市型農業や、美容に対するこだわりについて伺いました。
後編記事を読む >><小林涼子さんプロフィール>
俳優・実業家。4歳から芸能活動を始め、ドラマ・映画・舞台など幅広い分野で活躍。近年はNHK連続テレビ小説『虎に翼』への出演でも注目を集めた。2021年に株式会社AGRIKOを設立し、農業や地域活性化を軸とした事業を展開。都市型農園「AGRIKO FARM」の運営やアート事業をはじめ、多彩な活動を続けている。農業や自然との関わりを通して心と体の豊かさを大切にしながら、俳優、経営者、表現者として新たな挑戦を続けている。
Instagram:@ryoko_kobayashi_ryoko
編集/㈱メディアム 成田 恵子、執筆/北村 文、撮影/Suat Koylu、ヘアメイク/鷲塚 明寿美
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EDITOR

DEPACO編集部
エディター 高梨
旅行誌の出版社で編集職を10年以上経験。出産を機にキャリアを見つめ直し、今後は大好きな美容の情報発信をしたいという想いでDEPACO編集部へ。美容はスキンケアやベースメイクでの“土台作り”が好き。趣味は旅と料理。
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“十人十色の美衣食住”
後編記事を読む >>ひとそれぞれ、さまざまな「美」を大切にされている方々に迫ります。
今回のゲストは、俳優として活躍する一方で、農業事業を手がける株式会社AGRIKOの代表としても活動する小林涼子さんです。朝ドラ『虎に翼』への出演をはじめ俳優として活躍しながら、都市型農園や地域との交流を生み出す事業にも取り組むなど、多彩なキャリアを歩んでいます。農業との出合いや起業のきっかけ、俳優業との意外な共通点、日々の美容習慣、そしてこれから挑戦したいことまで。自然体でありながら挑戦を続ける小林さんの魅力に迫りました。